第16回 夏期広告セミナー

広告は、“伝える”から“つなげる”へ。
キーワードは、ソーシャル・クリエイティビティ、一回性、真正性

第16回夏期広告セミナーが7月24日電通関西支社大ホールで開催された。広告の現場で活躍された後、現在は多摩美術大学で教鞭をとっておられる佐藤達郎氏を講師としてお迎えし、カンヌライオンズ受賞作の分析も交えながら、ソーシャル・メディア時代のクリエイティビティについてお話をいただいた。

カンヌから「広告」の2文字が消えた

昨年カンヌ国際広告祭の名称から、アドバタイジングという言葉が消えた。広告を超えたコミュニケーションという意味で、クリエイティビティという言葉に統合されたのだ。つまり脱広告ではなく超広告。広告も含めてより広いマーケティング・コミュニケーションを深めるという意味合いがある。

最近音楽市場ではライブ市場が活性化している。そこにはユーチューブやアイチューンズの出現で、CDやDVDが売れなくなった背景がある。もはや複製技術による売上には限界があり、人々は1回きりのコンサートに価値を見出している。

また昨年話題になったCMに、JR九州の九州新幹線全線開業がある。東日本大震災によりわずか3日でオンエアが中止されたが、ユーチューブでは昨年時点で300万回以上見られた。このCMは事前告知を行い、自発的に地域の人が参加。約3万人の人により250kmのウェーブが完成した。2011年ACCのグランプリ、カンヌのアウトドア部門金賞をはじめ、数々の賞を受賞。こうしたカンヌ受賞作など話題性ある作品には、一回性と真正性という共通性がある。さらに話題なったCMの例を見てみよう。

<SONYブラビア>サンフランシスコの坂に25万個の色とりどりのボールが放たれる映像を捉えたもの。カンヌ2006年の金賞を受賞し大変話題になった。一回性CMの初期作品で、第2弾は解体前の高層住宅で、塗料ボムが次々と爆破された。

<T‐Mobile>ロンドン駅で突然音楽がかかり、通行人たちがいきなり踊りだすアクシデント的な撮影手法によるCM映像。

<ホンダ・シビック>スカイダイビングでHONDAの人文字を作るもの。Live Ad from Spainと表示され、生中継でオンエアされた究極の一回性CM。

これらのCMは、練りこんだシナリオや演出コンテを元に何度もテイクを取るという従来の撮り方とは全く違う。しかし人々の記憶に残り、高く評価された。そこにはただ一度の撮影という一回性と、実際に行うごまかしのない真正性という共通の要素がある。逆に作り込む場合はNikeの「Write The Future」やP&Gの「Thank You, Mom」などのように、映画監督などが本格的に撮らないと人々の心は捉えられなくなっている。

ソーシャル・クリエイティビティというキーワード

ソーシャル・クリエイティビティ(以下SC)とは、ソーシャル・メディア時代のクリエイティビティと捉えられる。世界的な広告会社DDBも「Introducing Social Creativity」で、人と人を結びつけるコンテンツを創るSCの重要性を説いている。さらにシェアすることが日常になった今、必要とされているのはSCであり、SCこそが新しいメディア環境に対応する考え方だと宣言している。

どんでん返し、泣かせるストーリー、ビジュアルの美しさといったこれまでのクリエイティビティから、SCでは“伝播性”のクリエイティビティへ移行した。“伝える”から“つなげる”へ変わったのだ。「Aさん、Bさん、Zさん、みんなに伝える」から、「AさんがBさん、Zさんにも伝えたくなる」間接的に伝えるクリエイティブという考え方だ。これまでのクリエイティビティに拘泥せず、人と人とが伝え合いたくなるようなものを生み出すこと。その重要なヒントが、一回性と真正性であると私は考える。

SNSが普及し、フェイスブック、ユーチューブ、ツイッターのパワーはもはや無視できない。TV-CMで火をつけて、後は自社サイトとユーチューブで流すというのがパターン。だからSCはSNS施策に留まらず、マスメディアやマス広告でも必要とされる。

「一回性」を広告に取り戻す

ドイツの思想家ベンヤミンは、メディア論で次のように語っている。「絵画やダンス、演劇など、今ここにしかない芸術作品特有の一回性というものがある。その一回性によってのみ、作品のアウラ(オーラ)が出る。それが複製技術によってどんどん失われていく」。現代のように複製技術が頂点に達している時代では、一回性を見たいと思う人が増えているのだ。

また、ホンダの生中継CMやT-Mobileなど尺の長いCMは、SNSや自社サイトでの再生なしには生まれなかったコンテンツだ。一回性のアウラがあれば、繰り返し見られ、人から人へ伝播する。つまりSCが発達したからこそやる意味が出てきたのだ。従来の広告の常識とは相容れないが、1千万回見られる可能性があれば、リスクがあってもやる価値がある。デジタルの急速な発達で複製技術も次の段階へ入り、従来にはない新たな方法論が出てきたと言える。

「真正性」を求める消費者たち

これまで真正性というのは、広告では軽視されてきた。なぜなら美味しそうとか、美しいとか、そういう風に見えることが最重要視されてきたからだ。しかしSNSの発達で真実がすぐ伝わるようになった。広告の甘い言葉や誇張された写真に人々は飽き飽きしている。ギルモア/パイン著の『Authenticity(真正性):what consumers really want』では次のように述べられている。「人々は世界が本物か偽物かという目で見るようになっている。そしてペテン師から偽物を買うのではなく、純粋な誰かから本物を買いたい。買うか買わないかを、提案がどれくらい本当かということで決めている。だから今日のビジネスはすべてBeing Real、オーセンティックに関するものである」。これは広告についてもかなり言えると思う。

九州新幹線のCMも地域の住民が参加していることに意義があると、クライアント側が素晴らしい判断をしたことによって生まれた。仕込まれたパフォーマンスだったら何百万回も観られなかっただろう。ここに真正性がある。SCをもたらす3つの要素には一回性、真正性、さらに参画性という要素が加わる。

真正性の代表例としてカンヌ受賞作を紹介。相模ゴム工業「ラブ・ディスタンス」・ ドコモ「森の木琴」・マクセル「ずっと、ずっと。新留小学校篇」・カールスバーグ「That calls for a Carlsberg」など。

カンヌのセミナーでも、動画のトラフィックがすごく増えている。今年は過去最高の参加者で、マーケティング・コミュニケーション分野の活況を思わせる一方、さまざまな環境の変化に対応すべく勉強しに来ている人が多いのも事実だ。

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