第14回 夏期広告セミナー

第14回OAAA夏期広告セミナーは、7月21日、電通関西支社12階大ホールで開催された。今回はITの伝道者とも呼ばれるITジャーナリスト林信行さんを講師に3つの「i」がもたらす情報ライフスタイルの未来について語っていただいた。日本でのiPad発売の直後とあってほぼ満席の180名の受講者が詰めかけた。

モバイル市場を席巻するiPhone

日本でも大旋風を巻き起こしているiPhone。最新モデルのiPhone4は3日間で170万台を世界で売り上げ、初期モデル~iPhone3Gまで世界88ヶ国で5000万台。iPod touch、iPpadを含めると1億台の規模である。顧客満足度も90%以上と非常に高く、法人や学校などへの導入も進んでいる。
ソフトウェアだけで進化できるプラットフォームがiPhoneの大きな特長だ。基本的な機能はシンプルで、現在35万本近くもある有料無料の豊富なアプリケーションから自由にカスタマイズできる点が最大の魅力。性別年齢問わず幅広いユーザーにリーチするあらゆる機能が充実している。
そもそもiPhoneはパソコン並の性能をポケットサイズに収めるという発想なので、他のスマートフォンと比べてもアプリケーションがダントツに多い。さらに1億市場とあって、アプリケーション開発のゴールドラッシュ現象がより加速させている。またiPhoneというデバイスの登場によって、これまで分断されてきたソフト産業が融合したり、PSPや任天堂DSなどのゲーム機市場をも脅かす現象が起きている。

どのように革命的に変わったのか

2007年にiPhoneが発売された時、アップルのCEOスティーブ・ジョブズは「時々革命的な製品が出て、全てを変えてしまう」と語った。まさにiPhoneがそれ。PCよりも圧倒的に接触率が高く、しかも年間10億台という市場規模のモバイルへ、GoogleやYahoo!も移行しつつある。携帯に進出しなければIT企業に未来はない。
iPhoneの発売以来、モバイルからGoogleへのアクセスが50倍に増え、日本でもソフトバンクにおけるデータ通信量が約10倍に増加。動画撮影に対応したiPhone3Gの発売1週間で、ユーチューブへのアップロード回数も4倍に増えた。iPhoneは人々の行動をも変えている。
PCではInternet Explorerが75%のシェアだが、モバイル・インターネットではアメリカの利用統計によると60%近くをiPhoneが占めている。アンドロイドやブラックベリーも実はアップルのオープンソースのウェブキットで、モバイルでは実に利用統計ベースだと80%近くがアップル社のウェブブラウザエンジンなのである。さらにiPhoneでは広く普及しているFlashも、技術的な理由から一切使用しないなど業界の流れも変えようとしている。
iPhoneは新しいビジネスモデルも作り上げた。ハードの販売代金から修理やサービス料金、音楽やテレビ番組などのコンテンツ代、アプリケーション代金の3割分など、端末の販売以降も儲けられるしくみを発明。もはや日本の携帯電話会社は太刀打ちできない状況で、しかも世界市場なのでソフト開発にかけられる予算も桁違いなのである。
アップルは顧客が欲しいサービスや機能を徹底的に追求してiPhoneを作り上げた。これによりキャリアにお願いして携帯電話を売るスタイルから、キャリア側から要望されて売るスタイルに逆転させたという点では、販売の勢力図さえも塗り替えた。
さらにメディア業界にも変化が。アメリカではマスメディアがiPhoneと融合しつつあり、電子書籍も増加。iPhone版電子教科書も出現し、教育界にも影響を与えている。

メディアとしてのiPad

画面が大きくなって操作がしやすく、iPhoneとはまた異なる体験を広げているのがiPadである。電子メール、ウェブブラウジング、写真、動画、音楽、ゲームなど7つのデジタルライフスタイルすべてに優れているため、それぞれの機能を連携して楽しめる。またTV、ゲーム機、アート作品の展示、楽器、学習や医療ツールなど使う人によってさまざまに活用でき、iPadの登場でいろんな人にインスピレーションを与えている。
アメリカではTV番組を買って観ることができるアプリケーションの他、ラジオ、雑誌、書籍のiPad版も登場。日本のメディア業界にも変化が訪れつつある。
広告媒体としても注目されており、雑誌タイムやウォールストリートジャーナルなどのiPad版にコカコーラ、Fedexなどが広告出稿し始めている。iPadはハイビジョン並にビジュアルがきれいなことが魅力。ブランドアプリも登場し、各社が自社のプロモーションに活用している。ホーム画面に自社ブランドのアイコンがおけることにブランド価値があり、将来はeコマースによる商品売買にもつながっていくだろう。

アップルの新広告プラットフォームiAd

iPhone、iPadのOSプラットフォームが1億台になったことで、アップルが遂に広告ビジネスにも参入。TV-CMに負けないエモーショナルかつインターラクティブな広告として「iAd」を開発した。タップするとその広告が一面に現れてまた戻せる。アプリから離れることなく広告が見られる点が特徴。画面が大きく表現が豊かなため、AdMobが行った調査で、そもそもiPhoneの広告はクリックされやすい、という調査結果も出ている。このようにiPhone・iPadの注目率は高く、日経ビジネスのiPad発売直後の調査では日本でも8割弱の人がiPadの購入意欲を示したという。

時間軸・親密軸・空間軸で広がるTwitter

今や世界中でつぶやかれているTwitter。情報大洪水時代において、Twitterの登場で自分の関心ある情報が1箇所に集約されるようになった。ウェブで検索する情報は一時的な関心軸だが、24時間関心を持ち続けられる情報には次の3つの軸があると思う。
●時間軸:140字の文字制限、つまり1記事あたり30秒以上かけられないところがTwitterのリアルタイム性を創出。コミュニケーションを広げる要因となっている。ラジオやTVなどのメディアとも非常に相性がよく、リアルタイムというシズル感で人々を巻き込み、多様なコミュニケーションを生んでいる。
●親密軸:ウェブ検索ではアルゴリズムが無機質に検索してくる内容だが、Twitterでつぶやけば人間の解釈を経て答が返ってくる。Twitterの出現で人々の知識から情報を引き出す知識検索へ移行しつつある。
●空間軸:さらにTwitterをiPhoneのような機器から利用すると、空間軸の可能性も広がる。どこにいてもつぶやけるので、その時の景色や心境を世界中の人と共有できる。位置情報検索サービスを使った新たなビジネスモデルや市場も生まれている。
このようにiPhoneやTwitterがもたらすiT革命の勢いは止まらない。その変化に関心を持って皆さんも変わっていただけたらと思う。

<講師プロフィール>
ITジャーナリスト兼コンサルタント
林 信行(はやし のぶゆき)

技術的視点だけではなく、製品のエコシステムやライフサイクル、それによってもたらされる未来のライフスタイルやワークスタイルまで含めた視点を重視して取材をつづけるIT系ジャーナリスト。近著は「iPhoneとツイッターは、なぜ成功したのか」(アスペクト刊)、「iPadショック」(日経BP刊)。

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