第15回交通・屋外広告セミナー
恒例となる第15回交通・屋外広告セミナーを、2019年2月27日(水)に大阪大学中之島センター10階佐治敬三メモリアルホールで120名の参加者を集めて開催。本年度のセミナーは、交通屋外広告のデジタル・データがネットワーク化され、顔認証やスマホ位置データによるターゲティング能力が整備されている昨今の状況を、世界の潮流と、日本の現状とで確認する2講立てとなった。第1部では三浦暁氏より、海外カンファレンスのレポーティングを通じてOOHの世界的な潮流が。また第2部では穴原誠一郎氏により、日本の最新デジタルサイネージ事例が報告された。
第1部:「FEPE 2018に見たOOH業界の未来像」
講師:株式会社博報堂DYメディアパートナーズ クリエイティブ&テクノロジー局IoTソリューション開発部 部長 三浦 暁氏
はじめに
アウトドアメディアはセレンディピティメディアで、予想外の素敵な出合いがある。モバイル端末のようにアルゴリズムに支配されていないので新しいブランドとの出合いや、好意を抱くきっかけを作ることができる。さらに視認性の高さや、受動的な接触/視界占有率の高さも魅力だ。デジタル広告のビューアビリティが取り沙汰される中、いまアウトドアメディアの価値が再認識されている。
1.カンファレンスの概要
第59回目を迎える「FEPE International Congress」は、昨年6月イタリアのソレントで開催された。欧州を中心とする屋外広告の世界的な業界団体が毎年1回催すコンベンションで、約40カ国から400名が参加。広告会社をはじめとして、業界に関連する会社も数多く参加している。テーマは押し寄せるデジタル化の波にどう立ち向うか。GAFA(Google・Apple・Facebook・Amazon)がOOHの領域に進出しつつある状況を受け、同業者で競い合うのではなく、手を取り合っていくべきだという話が基調講演で語られた。
2.OOHのデジタルトランスフォーメーション
デジタル広告は伸長しているが、いずれ飽和状態となるというのが共通の認識だ。OOHは緩やかだが堅調に推移。デジタル化の波を受けながらもアナログメディアは減少しておらず、アナログにデジタルがアドオンされているというイメージ。成長率はグローバルでも横ばい状態で、デジタルの割合はおよそ25〜30%、日本はそこまで至っていない。またダイナミック・DOOHが昨年より7%増え、浸透傾向にある。
OOHの売り上げはアメリカ、中国、日本が突出しており、GAFAにとっても日本は魅力的な市場である。今後さまざまなプレイヤーの参入が考えられる中、業界はどのように変革していけばいいのか、私が考える3つのポイントを紹介したい。
3.デジタルトランスフォーメーション(変革)に欠かせない3つのドライバー
①Data〜社会インフラ整備に伴うデジタルインベントリの拡大〜
IoTやAI化により社会インフラが整うと、色んな場所にモニターやスクリーンができて在庫が増えていく。フィジカルからデータ化・ネットワーク化へ移行し、サイネージだけでなく、アナログメディアのセールスにもデータが活用される。
日本では総務省が「Society 5.0」を提唱しているが、FEPEでもスマートシティに対応する事例が紹介されていた。またロンドンのピカデリーサーカスにある有名な巨大ビルボードの統合化の報告もあった。これまで6つのクライアント(広告)を、6つのシステムで動かしていたが10年がかりで統合に成功。日本でも粘り強く媒体を設計していけばネットワーク化が可能だと学んだ。通行人の顔・属性・感情などに応じて広告を表示。時間帯ごとのデータに基づきOOHのプライムタイムをセールスに活かしている。
②Programmatic〜配信基盤の自動化〜
OOH先進国のイギリスでは広告会社のDMP(Data Management Platform)と媒体社のシステムをつなげ、エージェンシー自身が広告枠に付加価値を生み出すプラットフォームを開発。オーディエンスベースでの枠の自動取引を実現している。
そしてFEPEでも提言されていたのが、GoogleがOOH業界に参入するのではないかという議論。Googleがオンライン市場に参入することでOOHのオープンマーケット化が一気に加速する可能性がある。今日本で人気を集めているタクシーアドにもGoogleが参入し、実際に競争が激化している。
③Measurement〜共通指標と効果の可視化〜
イギリスとアメリカでデジタル比率が高いのは、協調領域と競争領域を区分けしデータを整備しているため。協働で共通指標を策定し、プランニングの基礎データとしているのだ。昨年アメリカのIAB(ネット広告業界団体)がDOOHの標準化に乗り出したが、OOHの価値をデータで立証することは急務である。他メディアと比較できる指標が整備されると予算も引き出しやすい。ロンドン地下鉄の交通広告では、Wi-FiやICカードなどの1stパーティデータに媒体社が持つデータを組み合せて、広告の到達率をダッシュボード化したうえで、クライアントに示している。
広告主がインターネット広告における真のインプレッションの価値に気づき始め、ユニリーバやP&Gなどはデジタル広告費を削減した。ビューアブルなOOHの優位性はデータ上でも示されているので、これを機に業界が協力しあってデータ整備や標準指標に取り組んでいくべきだ。
4.DOOHにおけるプラットフォーム戦略
広告会社は需要(クライアント)と供給(媒体社)をマッチングさせる役割を担っているが、ここにプラットフォーマー参入の余地がある。ホテルドットコムやBooking.comなどに見られる他業界における参入例から我々は多くを学ぶべきだろう。独自のプラットフォームをつくらないと、業界外のプレイヤーに覇権を握られてしまう。
ネットワーク化はOOHにとって非常に重要な概念だ。媒体社のネットワークに他のロケーションネットワークを組合せ、ターゲティングの精度によってクライアントへの付加価値をつけられる。また今後OOHの領域でデジタル化が進行していくと、今後インターネット広告と同様のカオスマップが形成されていくことが想定されるが、エコシステム形成にあたっては、アウトドアメディアの独自価値を考慮する必要がある。
5.まとめ
プラットフォーマーという黒船が到来し、変革期にあるOOH業界。その変革に欠かせないドライバーが、①Data、②Programmatic、③Measurementである。①は共通プランニング・データ、②は自動取引プラットフォームや通信基盤の整備など。③は共通評価指標(通貨・カレンシー)で、顔認証やセンサーによる接触者の判定、アクチュアルの視認率、クライアントへのレポーティングなど投資対効果(ROI)を整備する必要がある。これらを共に創っていくことが望まれる。
デジタルインベントリが拡大しても値引きの活用でセールスをするのではなく、マッチングによって需要(デマンドサイド)と供給(サプライサイド)の利益の最大化が図られる。さらにロケーション価値=オーディエンス価値への再編が成され、よりコンテクスト(文脈)に沿ったクリエイティブの開発が今後求められていく。
FEPEでの議論がそのまま日本にあてはまるわけではないが、これらを参考に日本独自のエコシステムを業界全体で創り上げ、より良い未来を創造していきたい。
第2部:「進化するOOH デジタル化に伴う広告取引の未来像」
講師:株式会社マイクロアドデジタルサイネージ 代表取締役 穴原 誠一郎氏
1.ネットワーク化するデジタルサイネージ
訪日外国人増加に伴う多言語対応、オリンピックの設備投資、コンテンツ管理の効率化などにより、近年デジタルサイネージが増加している。サイネージが増えるとオンラインネットワークが促進され、コンテンツはリアルタイム化していき、場所や時間によってダイナミックに変わる環境が整っていく。広告活用の有無に限らず、情報表示端末である以上、オンラインネットワーク化は利便性の向上として、もはや必然であると考えられる。当然メディアとしての価値も向上し、活用用途が広がる。一昨年インターネット広告は1.5兆円に達したが、そのうち7〜8割はネットワーク広告だ。それだけ運用型広告によるメリットは、広告主にとっても媒体社にとっても大きい。
OOHはマスとネット広告の中間のような存在で、その時その場所にいる人にマッチした広告を出し分けることができる。ネット広告はPull型だが、デジタルサイネージはリーチ(Push)というのも強みだ。
弊社は媒体社様とパートナーシップを結び、「MONOLITHS」というプラットフォームを活用して広告主とロケーションオーナー様双方の利便性を高めて広告を配信。現在全国に約30万ディスプレイのネットワークがある。例えば1日の行動動線に合わせてリアルタイムな広告展開を行うなど、ターゲットに対して効率的にコミュニケーションしたい場合に適している。
2.オンライン化されたデジタルサイネージの広告例
オケージョンにマッチした広告をリアルタイムで配信することは視認性に大きく影響する。その日・その時・その場所にいる生活者に関連性のあるコンテンツ、つまり有益と感じられるコンテンツは、それが広告であっても情報として受け取られ、視認性を高め、行動にも繋がっていくと考えられる。現に最近は外部APIデータと連携し、天候や気温などに応じてクリエイティブを動的に変えるケースが増加している。リアルな購買はその場所に訪れてから決めることが6割と言われており、店頭でのサイネージは購買への効果が高い。
SNSとの連携も効果的だ。あるエンターテイメント系クライアントでツイッターとDOOHを連動させて訴求。大型ビジョンを主体として、ツイッターの特定の投稿の数をトリガーにしてクリエイティブ変化させる企画を実施したところ、わずか5時間で累計1万ツイートに達した。SNSの拡散率の高さと大型ビジョンの視認性が掛け合わされた時のインパクトの大きさを伺わせる事例である。
3.変わっていく広告枠取引のカタチ
こうしたことが可能になると広告枠の取扱い方も変わってくる。今年電通とCCIが、Googleの広告配信システムを活用して都内OOH広告のプログラマティック取引および配信の実証実験を開始した。また電通とドコモが設立した「ライブボード」は日本初のインプレッションに基づく広告枠の販売を実現。これはデジタル広告との垣根を下げていく取り組みである。視聴の可視化が進むことにより、近い将来、現時点ではインターネットのみで活用されているメディアバイドシステムが適応される環境になっていくだろう。また各キャリアが位置情報も含めたモバイルデータの活用を模索していて、これらが今後OOHの可視化にも影響を及ぼすと思われる。
OOHとインターネット広告では、圧倒的な広告主の数の違いがある。しかしDOOHの領域ではこれまで出稿したくてもできなかった広告主を取り込むことができる。ネットワーク広告が生まれて以降、広告主のニーズの変化と共にデジタルの純広告は23%に減少、運用型は77%にまで拡大した。媒体は同一の資産でありながらも、ネットワーク広告を共存させることで広告主のニーズを取り込める手段を確保し、収益を拡大している。同様にOOHの純広告が減少しても、オンデマンド型・ネットワーク広告の増加で十分収益を図れる。広告主の数が増えると出稿単価は減ると想定するが、ターゲティング広告は一般的に絞り込むほど配信単価は上がっていく傾向にある。今後は純広告、コンテンツ、ネットワーク広告という構成がひとつのロールの中で展開されていくと考えられる。
インターネット広告は2020年に2兆円に拡大すると予測されている(矢野経済研究所)。屋外・交通広告の市場規模は現在約5000億円。Googleなど既存のオンラインプラットフォーム上から広告配信される環境が整うと、ウェブ予算からDOOHへも投下され(仮に4分の1と想定すると約5000億円)、市場規模は倍増すると考えられる。DMP(Data Management Platform)、DSP(Demand Side Platform)、SSP(Supply Side Platform)というプレイヤーを介在したネットワーク広告がOOH市場にも流れていくだろう。
4.課題とその解決に向けての兆し
今後の課題は広告接触の可視化だ。媒体に接した人の数を数値化する環境を整えていくことがまず大テーマである。インターネット広告が隆盛になった理由は広告効果の可視化を実現したからで、広告主にとっても安心感や納得感がある。これをOOHでも実現できると市場のポテンシャルがさらに広がる。
広告効果の可視化の例として「Cinarra」のサービスを紹介しよう。ソフトバンクのWi-Fiに接触した端末(ソフトバンクのみ)の、位置情報と契約者情報を掛け合わせて活用できるもので、昨年夏に渋谷のスクランブル交差点で実証実験も実施された。年齢・性別・居住地などの契約者情報と、どこで広告に接触してどこへ行ったのかなど、ユーザーベースの位置情報を統計化したデータを活用することで、媒体の価値を高めることが出来ると考えられる。
専念視聴環境においての顔認識データの活用事例として、タクシー車載サイネージが挙げられる。現在東京ほか主要都市を含めて3つのタクシー媒体グループがあり、各グループとも1万台の運用があり、それぞれ600〜700万人/月にリーチできる媒体とあって東京地方では今かなり注目を浴びている。眼前約60cmの視界に入らざるを得ない環境で、視認効果が高い。メーターと連動しているので発車と同時に動画広告がスタート。顔認識機能が年齢性別を判定し、ターゲティングしてコンテンツを表示することも可能(画像を記録しているのではなく、アルゴリズムで判定)。広告主向けのリポートにも使えるし、訴求したい人に合ったコンテンツを出し分けられることも大きなメリットだ。
このようなメジャメントが可能になると、ウェブ広告と近い環境が整う。モバイル端末の位置情報を統計したデータや、タクシーアドのような専念視聴ロケーションのユーザー接触情報など、活用可能なデータベースが整ってくることで新たな広告主からの出稿にも期待できる。そのためにも各媒体で広告接触の可視化を整える取り組みを加速させていきたい。