第14回 交通・屋外広告セミナー
2018年2月26日(月)に、恒例の第14回交通・屋外広告セミナーを大阪大学中之島センター10階佐治敬三メモリアルホールで開催。約150名の聴衆が駆け付けた。今回も2部構成となり、第1部では、jeki「Move Design Lab」のプロジェクト・メンバーの方々から、スマホをほとんどの人が持つようになった今、生活者の行動形態がどのように変わってきているのかを詳らかに語ってもらった。第2部では、そのようにデジタルトランスフォーメーションが加速する中で、スマホなどから送られてくるデータに基づいて交通・屋外広告がどのように変貌していくのか、その最先端の国内事例を、昨年度に引き続き神内一郎氏からご報告いただいた。
第1部:移動減少社会に挑む jeki「Move Design Lab」活動報告
講師:ジェイアール東日本企画 ムーブ・デザイン・ラボ プロジェクトメンバー ストラテジックプランナー/プロデューサー 中里栄悠氏
移動減少社会に立ち向かう新プロジェクト組織
買い物の前には必ず移動があるという事実に着目し、弊社では移動する生活者を戦略的に狙う「移動者マーケティング」を実践してきた。しかし生活者の移動行動そのものは年々減少。特に若い世代ほど移動回数が少ない。背景には少子高齢化や晩婚/未婚化、そしてスマートフォンの爆発的な普及などがある。その一方で自宅でのモバイル利用時間は若い世代を中心に増加しており、移動量に影響を与えている。
アメリカの社会学者が都市生活者の居場所をファーストプレイス(自宅)、セカンドプレイス(職場や学校)、サードプレイス(自宅や職場以外の居場所)と定義したが、日本では「ファーストプレイス化」が進んでいる。在宅勤務やE-ラーニングが増え、ネットショッピングが移動の動機を奪う。昨今の若者は交通費にもシビアだ。ネット市場が発展すると、さらにファーストプレイス化が進む。移動途中で発生していた衝動的な買い物も減り、これが消費全体を縮小させる要因となりOOHにも脅威を与えていくことになるだろう。
こうした現状を受け、弊社では移動の未来について考えていく「ムーブ・デザイン・ラボ」というプロジェクト組織を昨年立ち上げた。主な活動ポイントは次の通りである。
① 新しい移動(Move)の兆しの探索・・・生活者の日常生活から新しい移動の兆しを発見し、その可能性の拡張を図る仕掛けを生み出す。
② 移動空間のリノベーション・・・OOHの可能性の拡張を視野に入れた移動空間のリデザイン。
③ 移動者への理想のコミュニケーションの探求・・・移動シーンならではの仕掛けやクリエイティブの最適化に関する知見の蓄積とソリューションの開発。
OOHの価値を広げる新しい移動創出を目指して
“新しい移動(Move)”にはたとえば食レポMoveがある。SNSが普及し、食レポが移動の動機になっている。食に限らず、フォトジェニックな写真を撮ることも移動行動を誘発。アニメやドラマなどコンテンツの舞台となった聖地巡礼、ポケモンGOなどのゲームも外出機会を増やした。このように移動は増やすことができる。生活者と企業をMoveでつなぎ、モビリティの事業者・企業・生活者が、win-winの関係になる企画を作ることができれば新しいマーケティングや広告のソリューションになる。
その具体的な事例がベルリン交通局(BVG)×adidasの「EQT-Support93/Berlin」だ。両者がコラボし、BVGが運営する交通機関が1年間無料になるスニーカーを販売。価格は180ユーロ(約24,000円)で、非常に話題になって限定500足がすぐに売り切れた。モビリティの事業者と企業と生活者がまさにwin-winの関係で、新しい移動を生み出した先進の事例である。
我々「ムーブ・デザイン・ラボ」は、リサーチ(Moveを知る)、デベロップメント(Moveをつくる)、PR(Movementをつくる)の観点からMoveをデザイン。新しい視点で生活者と企業を結び付け、OOHの価値を再定義できるような仕掛けをつくって移動減少社会に挑んでいきたいと考えている。この後はリサーチ分野の担当者から調査の解説をしてもらう。
Move基礎調査から
講師:同プロジェクト データアナリスト/ストラテジックプランナー 彦谷牧子氏
生活者の意識や行動を把握するため、全国で定量的に「Move基礎調査」を実施した(2017年3月)。自宅(ファーストプレイス)、職場や学校(セカンドプレイス)、サードプレイス(自宅や職場以外)という3つの場と、場と場をつなぐ2つの移動の行動・意識を調査。生活全般における実態や意識も併せて調査し、行動の背景を紐付けられるようにしている。
移動が多いのは30代だが、若年層は結婚しているか否かで移動回数に差があり、今後は晩婚・未婚化が影響するのではないか。20代が最も移動回数が少なく、70代を下回るという調査結果は、メディアでも注目されている。
エリア別で見ると、大阪は全国平均よりも外出が少ない。日常的な買い物は全国平均よりも多いが、散歩や家族との外食・娯楽などが平均よりも少なくなっている。
引きこもりの意識は年齢が若いほど高く、20代では6割を超えている。家にいる方が楽しい・好きという人が若いほど多い。一方で、スマホを伴う新しい移動も若い人から生まれてきている。
MMI(Move Mind Index)調査から
講師:同プロジェクト データアナリスト/リサーチプランナー 市川祥史氏
MMI調査とは、生活者の外出意欲を見える化したもので、毎月定期的に全国で調査を行っている。その調査によると、どの年代でも女性の方が外出意欲は高く、20代女性が最も高い。20代ではお出かけ意欲の男女差が顕著で、パートナーがいないケースで特に差が大きい。
外部機関の実施した20代男女のスマホ利用実態調査では、週末に男性のスマホ利用率が高いという結果が出ている。移動を減らす要因のひとつがサードプレイスのバーチャル化で、特に男性はオンライン上で集まるケースが多い。またファーストプレイス化が進んで、若者の間では出かけることが贅沢だという思考が強いこともわかっている。
一方でスマホによって新しく生まれた移動もある。主に次のような3つ。気になるお店などの情報を取り出して利用する「ネタストック型Move」、外出先で新たな目的地を決める「その場リサーチ型Move」、SNSでシェアされたネタに乗っかる「ネタシェア型Move」。
年代別で言うと20代のサード移動が非常に少なく、若者層ほど家にいることを好む引きこもりの意識が高い。一方でスマホを駆使して移動する若者も多く出現。テクノロジーの活用などにより、こうした若者を動かすことが次のMove創出のカギになるだろう。今日ご紹介した調査の結果は弊社のサイト「恵比寿発、」で常時公開。参考にしていただければと思う。
第2部:5つのトレンドから読み解く、正しいProgrammatic OOH時代の迎え方
講師:電通 アウト・オブ・ホーム・メディア局部長 神内 一郎氏
Programmatic OOHとは?
OOHは強制視認性のあるビッグメディアで、行動に影響を与えやすいなどの強みがある。しかもOOH×モバイルの広告認識率は2倍、クリックレートは1.6倍。脳科学的な見地から調べると、動画は静止画に比べて2.5倍のインパクトがあることもわかっている。
世界のOOH市場は年率5%の成長を遂げていて、デジタルOOHに限ると13.2%も伸長。しかし日本はこの8年で年率0.5%、全広告費に占める割合は8%とほぼ横ばい。グローバルではデジタル比率が約40%に高まっているのに、日本はなかなかそこまで達しない。根底にどんな問題があるのかを今日は考えてみたい。
世界と比べて大きく違うのは、日本のOOHは非常に細分化されたマーケットだということ。広告の空き状況を一元的に管理できない、標準的なOOHオーディエンス・データがない、多様な広告フォーマットがあって標準化されていないというのが現状だ。つまりこれまでのOOH 広告の考え方は、4万年前の壁画から進化していない。そこで広告のプランニング、枠の買い付け、配信を一元的に自動化。ターゲットを自動的に把握することで広告の価値を高めていこうというのがProgrammatic OOHの定義だ。その動向を5つのトレンドを通して紹介していこう。
1.都市化の加速
2050年までに75%の人が都市に住むと言われ、IOTの加速により、2020年までには300億近いオブジェクトがネットに接続される。トータルのIOTマーケットは日本だけでも23兆円に至ると言われている。これはOOHにとっても非常に好ましい状況だ。コネクトシティの潮流に乗って、電通グループもConnected Benchと呼ばれるWi-Fiや電源を提供するステーションの設置を進め、気温に応じてクリエイティブを変えるOOHを実施している。ニューヨークではAT&Tが公衆電話ボックスをこのようなステーションとして有用化。Wi-Fiでつながると、そこでどんな人が使っているかを把握できるので適切な広告が掲示できる。都市化によって世界でこうしたモデルが広がり、OOHにとっても追い風となっている。
2.標準指標の重要性
IOTにより、OOHは媒体発想からオーディエンス発想でのプランニングへ変化しているため、標準指標が不可欠になる。日本を除く主要な国々のOOH業界団体は、グローバルOOHガイドラインの制定に参加しており、標準指標を構築している。しかもOOHだけでなく、オンラインやTV、新聞なども同じ指標で捉えられるように設計されている。イギリスには「route」というオーディエンス調査システムがあり、モニターに調査機器を持たせ、媒体の前にいつ、何人ぐらいの人がいるかを測定。また、別途媒体の視認率も調査し、視聴率を算出している。同様にアメリカには「geopath」があり、モバイルアプリケーション等から情報を吸い上げて視聴率を作成。日本でもドコモ・インサイトマーケティングが、携帯基地局データを活用してオーディエンスを分析するサービスを始めている。イギリスのユーロスターではYouTubeを活用したOOHのプランニング事例もある。
AI(ディープラーニング)
AIの画像認識により、今やカメラ1つで通行人のある程度の属性を把握できる。オーストラリアでは媒体にカメラを設置してデータを取得し、ターゲットによって商品広告を変えて広告到達率を高めている事例もある。
資生堂マキアージュのキャンペーンでは、視線検知や顔認識の技術を使ったDOOHを六本木駅で実施。視線に合わせてクリエイティブが自動的に変化し、何人広告の前にいるか、何人が広告を見たかなどのオーディエンス・データを分析、効果をリアルタイムに計測した。
インターネットのサービスも増え、リアルタイムにオーディエンスを把握できる時代になった。こうした中で参入してきたインターネット関連の企業に主導されるのではなく、我々自身がOOHの標準指標を今後どう作っていくかが喫緊の課題になっている。
3.自動取引
メディアの現場では多くの時間を空き枠確認に費やしている。こうした現状を打破すべく、イギリスでは取引の標準化が進められている。スクリーン単位で固有のIDを付与することで網羅的に空き枠を確認するシステムを開発。発注プロセスも標準化されているので事故が起きにくく、効率的に業務を遂行できる。世界では媒体社ごとに自動取引のプラットフォーム構築が進んでおり、日本のOOH業界においても取引の自動化は急務である。
4.ダイナミックDOOH
外部データを活用してクリエイティブを自動的に変えるダイナミックDOOH。日本の調査では、ダイナミックDOOHの認識率は+25%、広告の適用度は+80%、商品の利用喚起度は+80%という高い効果が報告されている。
<海外の事例紹介>イギリス・オレオの皆既日食:オレオを日食に見立て、エリア毎の日食の時間に合わせサイネージで日食を表現した。イギリス・ヒースローエクスプレス:道の混雑具合などを示し、到着客にダウンタウンまでの最適な交通手段を提示。キャノンニューヨークのキャンペーン:光の具合やシャッタースピードなど、その時や場所などに応じて最も相応しい撮り方を提示。その他にもAIの顔認証を活用し、ユーザーに応じて表現を変え、インタラクティブに触れ合うような事例もある。
<国内の事例紹介>コカコーラのキャンペーン:全国5都市に、気温に連動してクリエイティブが変わるサイネージを設置。サントリー金麦キャンペーン:都内主要駅で花見情報を表示。気温や開花状況などに応じてクリエイティブが自動生成される。村田諒太選手の世界タイトルマッチのPRや、M-1グランプリなどでも活用。M-1ではSNSと連動し、SNS自体がダイナミックの強力なデータになった。現在日本全国100カ所にDOOHの環境が整い、DOOHを使ったキャンペーンも増えている。
5.広告監査
これからは広告費が適切に使われているか、実際に掲載されたかなどが精査されていくだろう。OOH の場合電気が消えて広告が見えない、ポスターにラクガキされるといったトラブルも生じるので、広告主に対して広告掲出証明や、広告監査としてレポートの提出が必要になる。海外では監査報告を自動的にリポーティングする会社も出現している。
いまOOHは間違いなくイケてる業界だ。今後も皆様と一緒に業界を盛りあげていきたいと思う。