第11回 交通・屋外広告セミナー

2015年3月4日(水)、第11回目となる交通・屋外広告セミナーが開催された。当協会では初の利用となる中之島セントラルタワー17階会議室に、約100名余の参加者を迎え、熱のこもった講演会となった。
交通・屋外広告の媒体は進化し、今まで以上の訴求力を持つメディアになっているものの、昨今のネット拡散型の社会では、その機能は単体では限界があり、ネット連携で新しい役割を果たすと、以前にも増して効果を発揮する実態が紹介された。

第1部
スマホ社会におけるOOHメディア ~どう売るかを考える~

株式会社オリコム メディア推進室シニアディレクター 吉田勝広

情報先取りの感度が高い、スマホ利用者
携帯・スマホの接触時間が伸長し、電車内でも乗客はスマホを見ていて広告を見ていないという意見がある。果たしてそうだろうか?
通勤通学時は広告接触の重要な時間帯。電車内の行動で、スマホ利用者は増加しているが、車内広告を見る率は多少減ったものの依然として一番高い。一方、雑誌・新聞・本を読んでいた人は激減している。
スマホ利用者は〝情報先取り感度が高い?という特性があり、車内で広告に接触する確率も高く、広告接触後SNSで拡散・検索する20代は30.5%にも上るという。つまり交通広告は、明確に「検索」への誘導口の役割を担っている。

最新OOH事情
車内広告の需要は中吊りよりもサイネージへ移行しつつある。レギュラー展開するセブンイレブンではTV-CMだけより、TV-CM+車内映像を見た人の方が対象商品の購買率が高いことから実施しているようだ。JR東日本の「トレインチャンネル」は13年連続右肩上がり。ウェブとも連動しやすく、ターゲット層との接点拡大にも貢献している。
広告効果はメディアの接触時間に比例する。近年1週間中吊りが普及し、掲出期間も長くなって認知を高め易くなり、見直された例もある。ビジュアルは視認性の高いシンプルな表現が効果的で、遠くからでも視認できる訴求が大切。ライオン「ストッパ」や「Ban」など、電車内での人々の心理状況に即した商品訴求が効果を上げた例もある。
人々が流動する環境にある駅構内のサイネージでは、一瞬にして商品やブランドを印象づけることが重要。
またOOHの新しい流れでは、外国人向けのインバウンド広告が登場。インフォメーション機能も付随され、益々拡大している。

広告目的に応じたプランニング手法
OOHメディアは、次の3つの目的に応じて使い分けるべきだ。
①商品の認知拡大・・・ターゲットリーチを最優先する大量輸送の路線や大型ターミナル駅で機能価値やメリットを訴求する。
②販売促進や流通支援、特定箇所へのイベント集客・店舗集客・・・エリアや動線を優先し、最寄り駅や沿線路線で購買の動機付けを計る。
③話題喚起で情報拡散を狙った絆作りやブランディング・・・驚きや共感呼ぶコンテンツを重視。集中ジャック的なもの、世界観を伝えるもの、インタラクティブな体験価値の創造など。
主にこれら3つが多い。スマホを活用し、OOHメディアと連動させたキャンペーンやイベントも各地で実施されている。
〈事例紹介〉
①映画「サイコパス」のシビュラシステム疑似体験プロモーション。東京メトロで過去最高の集客を記録
②スマホを操作して打ち上げる、渋谷駅前大型ビジョンのデジタル花火大会
③キリンビールが名古屋駅の100台サイネージで通行人のスマホに無料クーポン配信、店舗への送客。
OOHメディアは写真を撮ってSNSで拡散しやすく、検索もされやすい。技術革新も進んでおり、今後更なる活用が期待される。これまでOOHメディアは土地・看板を扱う不動産業的で、そこを通る人だけが対象だった。しかしネット社会ではスマホを通して顧客を囲い込むまでに拡大。通勤時はキュレーションメディアを見る人も多く、それとの連動も効果的。交通広告とウェブ広告は相性が良く、さらに可能性が広がるだろう。
以上のような理由で、「電車内でスマホを見る=交通広告を見ない」、と考えるのは短絡的である。現代は、TV、PC、スマホと液晶画面を乗り継いで生活する時代、デジタルサイネージはこれらとも相性が良い。スマホと連動して情報発信することを念頭に、屋外交通広告に取り入れる方法を考える時代になっている。

第2部
OOHメディア・エクステンション
~スマホ時代のアウトドア・メディア活用事例「ライスコード」~
博報堂-ディレクション局シニアクリエイティブディレクター 須田和博

メディアエクステンション時代の企画とは?
新しい広告というのはいつも先進のテクノロジーを伴って世の中に出現する。新しい技術をいち早く使ってそれまでにないものを創り上げることが広告の歴史。ただメディアの進化ほど人間は進化しないので、新しく登場したメディアがかつてのどのメディアの機能を担っているのか、考えることは大事。
使ってもらえる広告
スマホの企画も、アプリやサイト等から考えがちだが、もっとユーザー行動に着目すべき。人間は現実と情報の世界を行き来しており、スマホからだけの発想はNG。
例として、ロッテのソフトキャンディー「カフカ」を紹介する。ターゲットである幼稚園児のお母さん達を観察。アメを携帯する、スマホで子供をあやす等の行動を発見し、そこから彼女たちの最大の「困りごと」である「子供のぐずり泣き」を解決する「泣きやみ動画」を制作。赤ちゃんが泣きやむ音響効果の歌を作り、商品USPを体現したキャラクターが、その歌に合わせて活躍する、スマホで再生できる動画を公開。0?3歳児の96.2%が泣きやむ動画は、たちまち話題になり、オリジナルは1,000万回超、ユーザーによるリミックス版も合わせるとのべ再生回数は4,000万回を超え。絵本も出版され、35,000部の大ヒット作となる。
接触したいターゲットを狙う際に使うメディアは、本人に近いものを観察から発見し、訴求ではなく「利用してもらう」という考え方で行う。(詳細は、「使ってもらえる広告」アスキー新書参照)
例えば「ニベア・サンプロテクト」では、日光浴の際、子供に雑誌広告に付帯しているリストバンドを付けさせ、専用のアプリをリンクすると、子どもが一定距離より遠くに行くと、迷子防止のアラートを通知してくれる。スマホを活用し、ターゲットの役に立つサービスを広告プロモーション予算で実現した。
スダラボとは何か?
約1年前に自主開発型クリエイティブ・ラボ「スダラボ」を設立。目的は「広告の新商品」をつくること。次の3つの実験に挑戦。①受託ではなく「開発型業務実験」。開発の仕事で得た知見を受託の仕事にも活用する。②「広告遺伝子組み換え実験」は、広告制作者が持つスキルを組み換えたり、広告会社が持つクライアント、メディア、人材というリソースを組み換えて活用したりする。③「次世代人材育成実験」として、人材を育成し続ける。
思いついたらすぐやるのが大事。アイデアを「プロトタイプ」として、今の時代のメディア、技術ですばやく実施する。まず開発した汎用サービスが「ネイチャーバーコード」。その実施第一弾が「ライスコード」だった。「景色を売場にする」というコンセプトで、画像認証技術を活用し、青森県・田舎館村の美しい「田んぼアート」からeコマースで産直米を購入きる仕組みに仕上げた。
第二弾は「トーカブル・ベジタブル」。野菜の水分と、ヒトの手の水分の接触で起こる電位変化を利用し、生産農家の声を店頭から届ける仕組み。第三弾はTSUTAYAの販売促進で、360度ホラームービー体験イベントを実施し、心拍数に応じて割引額の変わるクーポンを発行。体験者自身の「悲鳴」がメディアになって、渋谷店の店頭の集客に寄与した。
随所にメディアが存在する時代だから、グッとくる瞬間を見逃さないことが大事。田んぼアートを見てグッとくる、子どもが泣きやまずに困っている時にグッとくる、その感覚が屋外広告でもスマホ広告でも重要。屋外広告はまさに時と場所が大事。グッとくるサイネージは机の上ではなく、現場を見ないと企画できない。
新しい普遍
時代に応じた新技術を用いて、受け手の心にいかに接近するか。成功すればヒット作になり、ただ新しいことをやっただけでは心に届かず失敗。普遍的なものをいかに新しくするか?そういう意味で〝新しい普遍?と言っている。
新しく登場したメディアは、「昔は何だったのか?」と考えてみることが大切。トレインチャンネルもTVの延長のようだが、実は「中刷り」の発展形と考えた方が良い。だからこそ、そこで単にTV-CMを流しても駄目で、むしろ「中刷りを動かす」という発想が必要。
最後にスタジオジブリの鈴木プロデューサーの著書にある「企画は自分の半径3m以内に転がっている」という言葉を紹介しておく。映画の世界でもハリウッドからどんどん新しいテクノロジーが入ってくるが、実際に人の心を動かすのは「自分の身の回り」で起きていることにヒントがあるということ。広告でも、単に新技術を駆使するのでなく、自分自身が「実感を持てる企画」をすればいい。そうすれば、新技術の新情報にばかり目を奪われて、足元をすくわれることはないはず。

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