第10回 交通・屋外広告セミナー

第10回交通・屋外広告セミナーは、2014年3月14日(金)、電通12階大ホールで、約100名の参加者を迎えて開催された。第1部では、近年流通業としても注目を集めるジェイアール東日本の駅消費研究センターが開発した新たなマーケティング手法「移動者マーケティング」について、加藤氏にご講義いただいた。第2部はシャッター商店街を盛り上げるべく立ち上がった電通クリエイターの方々による商店街活性化プロジェクトについて。社員教育としても機能したという「ポスター展」の成果などを電通関西支社の日下氏に伺った。

第1部
移動者マーケティング~移動を狙えば、”買う”はつくれる~

株式会社ジェイアール(以下JR)東日本企画・駅消費研究センター長 加藤 肇

駅消費の実態
ここ10年、急激に駅の買い場化が進行している。少子高齢化で今後運賃収入増が見込めない分、電鉄各社は商業ビジネスにシフト。駅ビルや駅ナカへの出店で商業ビジネスを特化させてきた。H24年度の日経小売売上ランクにJR東日本グループ計の商業売上1兆3000億円(独自算出)を比較すると売上高で4位の小売業に相当する。こうした駅の商業施設化に伴い、私達は駅や駅の周りで商用する消費者をEKISUMMER(EKI+CONSUMER)と名付け、様々な角度から研究を進めている。
H24年実施の調査では、駅ナカや駅に付随する商業施設での買物は全体の約1割。駅から徒歩5分圏内まで含めると全体の45%にも達する。利用時間帯では駅ナカは朝7?9時に集中、平日は朝に駅ナカで朝食系のものを買い、夕方は駅ビルで道草して帰るというパターン。駅周辺での消費習慣が根付いて来ている。

駅消費の背景に潜む消費インサイト
駅での買い物は1/3以上の人が移動中に意思決定(駅ナカでは76%)。私達はこの「買い物の前後に移動がある」という事実に着目。その背景にある深層心理を調査・分析し、エキシューマーのインサイトを次のように分類した。
①オン/オフの気持ちの切替え②モノ・コトとの新たな出逢い③日常の慎ましやかな楽しみ/週末は自分への褒美。①のキモチスイッチ商品としては朝食バーや健康飲料、帰りはクールオフする夕刊紙などが挙げられる。②は自分に最適の化粧品や手頃な掘り出し物など、③のプチ贅沢商品としてはハーゲンダッツやプレミアムビールなどがある。このように移動中には特有のインサイトがあり、それが衝動的・非計画的な買い物に結びつくので、家までの動線上でこれらの消費をどう捉えていくかがポイントになる

移動者マーケティングとは
こうした調査を基に組立てるのが移動者マーケティング(日経BPコンサルティングから出版)である。超成熟&情報過多社会では認知や好意は必ずしも購入行動を保証しないが、移動者へのアプローチはリアルな行動を直接的に誘発できる。皆が接触情報を選別しようとする中、店を通るその直前のコンタクトは効果的で、心理が切り替わる狭間の移動中は情報も受容されやすい。
都市自体が巨大なショッピングセンターと化した現代、移動者はプレショッパーで潜在顧客状態にある。朝は「オフからオンへのモード切替え」、夜は「ご褒美」というように、移動者インサイトは時・場・シーンによって移り変わる(TPOインサイト)。潜在顧客のこうした心理を刺激して需要を促進する提案を行うことが、移動者を動かす要素となる。
マスメディアなどによる認知・好意形成が先発で、店頭での購入促進が抑え投手だとすると、移動者マーケティングは購買行動を喚起する中継ぎの役割。予定しなかった需要を創造し、ブランド選択支援にもなる。
移動者マーケティングを強化するのがデジタルサイネージだ。モバイルやデジタルサイネージの発展で、タイムリーな移動者へのアプローチがますますし易くなっている。
また女性の社会進出や社会の動態変化などを背景に、駅近辺はこれからも商業施設が増えていくだろう。流通論やマーケティング戦略論が専門の明治大学・上原先生も「郊外で待ち受ける流通から、今後は移動者に近づく小売りが伸びる」と指摘されている。

第2部
文の里商店街ポスター展 ~買わんでええから見に来てや~
株式会社電通関西支社 関西クリエーティブ局コピーライター 日下 慶太

新世界市場で始まった第1回ポスター展
商店街活性化プロジェクトは日下氏の社外活動で、2012年に通天閣近くの新世界市場で行った町興しイベント「セルフ祭」に端を発する。シャッター商店街の市場を盛り上げようとポスター展を企画。若手の研修として社員32名がポスター作りに参加。デザイナー・コピーライターがペアになって各店舗を担 当。全15チームで制作にあたった。
「きちんとお店に向かい合って面白いものを作る」、「制作費はいただかない」、「賞に応募する」等の規定の下、最後まで全て自分達で仕上げた。その後空き店舗を活用し「市場ギャラリー」をオープン。第1回目のポスター展を開催した。
これが反響を呼び、30社程でニュース報道され来客は2倍に。メディア効果は約1億円。全国の商店街にもこの試みが波及した。TCC新人賞の受賞など社員育成の手段としても評価された。イベント後も諸々継続的に話題を呼び、今や観光名所にまで成長した。

第2弾は激動の阿倍野区文の里商店街
第2弾はアベノハルカスの盛り上がりの陰に残された、文の里商店街で実施。今回は市商工会議所のバックアップもあり、商店街の依頼に応える形で実施。参加スタッフも60名と倍増し、制作段階からTVの取材も入る。ポスター総選挙やポスター全集作成などの追加策も講じ、メディア効果は約3億円。40数社が80回程取り上げる。来客は2倍、全国ネットの番組で紹介された影響で北海道や九州からも来場があった。「ポスターを介してお客さんと会話しやすくなった」等、商店主の方の積極性まで引き出した。

1ビジュアル1コピーの効能
このプロジェクトも社員教育という効果側面は高い。参加した社員にも強い刺激をもたらした。1ビジュアル1コピーという広告表現の基本に立ち返り、広告屋の原点である直接顧客と膝をつき合わせて検討することは貴重な経験だった。
100%自分の企画なのですべった社員は反省し、ウケた社員は自信になる。社内での刺激競争も生まれ、日々のモチベーションアップにもつながる。広告賞はトータルで14個を受賞。自分の力で人の役に立てる実感などを経験でき、これも職能を活かした社会貢献「プロボノ」ならではの成果である。

「おもろい × 社会に良い」
日下氏が学んだ事は「まだまだいけるぞ、オールドメディア」ということ。ポスターという古典メディアも、廃れかけた商店街と結びつけばこれだけの効果を生む。使い方や展示の仕方次第で、メディアも取り上げてくれるし、人々も歓迎してくれる。
また〝残る広告の可能性?という効果も再発見。新世界市場のポスターが2年半経った現在でも新聞で取り上げられるのは商店街に残存する効果。残っているから観光名所になった。OOHの分野においてもずっと残る広告の作り方があるのではないかと思う。
カンヌライオンズではsocial good が潮流だが、今は売上を伸ばすのみならず、社会に良いことを広告会社のアイデアで還元していくことも大切。するとマスコミにも取り上げられやすいので、低予算で企画する場合、「おもろい×社会に良い」という構図で進めるとパブリシティ以上の効果を生む。
さらに業務外のこうした活動から新しい発想やサービスが生まれてもいる。「セルフ祭」という個人的な活動が今回のような仕事に発展したのも、社内活動をイノベートした結果である。仕事以外の時間が人脈や可能性を広げる場にもなっている。「おもろい×社会に良い」をやっていると、人と人、会社と会社がつながってくる。社会貢献を目的に集まった人間関係は短時間に、物事もシンプルに運ぶのが特徴である。
「金は稼いでいないが、人を稼いでいる」。これは新世界市場のジャズレーベル澤野工房社長の言葉。人を稼いだらいずれ金になっていくのだと彼はいつも言っている。皆さんの会社でも「人を稼ぐ」社外活動に目を向けてみてはいかがでしょう。

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