第9回 交通・屋外広告セミナー
第9回交通・屋外広告セミナーは、平成25年3月8日(金)に電通関西12階大ホールにて開催された。構成は2部構成で行われ、全体を通して120名の参加を見ている。第一部では広告効果の指標化が遅れていた屋外・交通広告において、ようやくテレビのGRPのような統一指標策定に向け動き出した現状につき、ご報告いただいた。第二部では既成のメディア枠にとらわれない斬新な発想で世の中を沸騰させている博報堂ケトルの嶋氏に、キャンペーンにおける交通広告の役割や効果について、最新事例を引き合いにご講義いただいた。
第1部
動き出したOOHメディアの広告効果指標
「屋外広告の取り組みについて」
電通アウト・オブ・ホーム・メディア局マーケティング推進部専任部長 木村 有宏
屋外広告の効果指標については欧米が先行しているが、日本でも2011年に「屋外広告指標調査研究プロジェクト」が立ち上がった。広告代理店と屋外広告媒体社58社・団体(6月時点61社・団体)が会員となり、屋外広告業界の共通の効果指標作り、その指標の管理を行う。現在最も基礎的な効果指標の一つである広告視認者数の推定と調査方法の標準化を進めている。初年度には繁華街(駅前)の広告に関する歩行者の視認調査と媒体属性の調査を実施。実測視認率と媒体属性から、推定視認率のモデル式を作っている。現在ではさらにロードサイドボードに関する推定視認者数のモデル式にも取り組んでいるところだ。電通では屋外広告の視認のみならず、その先にあるターゲット層の数やそれによって起こる意識変容、ブランドや購買にどう寄与したか、他媒体と組み合わせた場合の効果なども研究している。
「交通広告の取り組みについて」
電通アウト・オブ・ホーム・メディア局マーケティング推進部長 中野雅之
交通広告では散在する各社のデータの一元化を図るべく、共通指標を整備していこうとJAA(日本アドバタイザーズ協会)から具体的な要望を受ける形で2012年、JAFRA(日本鉄道広告協会)内に交通広告のアカウンタビリティ向上委員会が発足。広告会社や電鉄系ハウスエージェンシー10社による検討体制ができた。業界各社の共通データとして活用し、広告主に納得いただける交通広告の媒体提案をしていくのが狙いである。昨年プレ調査を実施しJAAから一定の評価が得られたが、サンプル数を蓄積することでノーム値(基準値)も算出できるので、2013年以降も継続して調査を実施。交通広告の強みを検証できる調査設計を目指したい。さらに今年度の関東交通広告協議会のユニット広告調査を新たな共通指標へ切り替えて実施いただくことを要請中。将来はサーキュレーションデータの整備、駅メディアへの取り組み、エリアの拡大などさまざまな課題にも取り組んでいきたい。
第2部
統合キャンペーンにおける交通広告の役割と期待~メディアフラットの視点から
㈱博報堂ケトル代表・クリエイティブディレクター 嶋 浩一郎
博報堂ケトルが考えるアウトドアメディアの活用方法
体験化するコミュニケーション
CMだけでなく、デジタルコンテンツの制作や、時には雑誌の編集から書店の経営まで博報堂ケトルのアウトプットは多岐にわたる。クライアントの課題に対してニュートラルに最も効果的な施策を選ぶとおのずとアウトプットも様々な形になる。
かつての広告はメッセージ伝達だったが、現代の広告は体験の提供にある。アウトドアメディアもその例外ではない。
また、トラディショナルなマス媒体からソーシャルメディアまで様々な情報チャネルがある現代においては、「どのタイミングにどのメディアからどんな情報を発信していくか」というシナリオを設計する技術が必要になる。我々は広告をつくる表現技術と同時に様々なメディアの特性を知り必要がある。課題解決のためにどのメディアを選択するのかそのセンスが一層重要になってくる。
博報堂ケトル、プランニングのポイント
僕らがプランニングするうえで重要視しているのが次の3つ。①ニュートラルに発想する ②分業しない ③コアアイデア発想をする。クライアントの課題解決のためにもっとも効果的な手段を考えるのがケトル式。
その時、一番大事なことは人が動くツボの発見。そのツボを押すための最も効果的なメディアと表現を考えること。それがコアアイデア発想。ニュートラルな提案をしていくために、コストに連動するコミッションではなく、メディアに紐づかないフィービジネスを採用している。
ニュートラル発想のお手本が80年代の米人気ドラマの「冒険野郎マクガイバー」。捜査員マクガイバーが、毎回既成概念にとらわれない様々な方法でピンチを脱するストーリー。全ての仕事は目の前にあるリソース(人とか予算とか)をいかに編集して課題を解決するかだが、マクガイバーは「そんなやり方があったか!」と思えるニュートラルな課題解決を見せてくれる。
また、戦略→表現→メディア→SP・PRといったバケツリレー式の分業だと、既存の手段の中での発想に陥ってしまうので、ケトルでは少人数(スモールテーブル)で全てのアウトプットの議論を行う。そのやり方は課題に対してまず、どうやって人を動かかすかというコアアイデアを決めること。そのコアアイデアを実現するために最善のメディアと表現を後から考える。
僕らが目指す仕事を象徴しているのが、クリスピン・ポーター&ボガスキーがつくったグーグルの交通広告。ハーバードやスタンフォードなどから優秀な学生をリクルートするという課題に対して、彼らは大学近くの駅に「First 10digit prime found in consecutive digits of e.com:自然対数の底eの中から最初に連続する10桁の素数.com」とだけ書いた横断幕を設置した。じつは、それは数学・物理好きが解かずにはいられない問題で、まさに彼らに効くツボだった。これを解いてアクセスするとまた次々と難問が提示され、最後に「ようこそGoogleへ、あなたを採用します」と出る。メディアありきではなく、コア・アイデアを最大限活かした結果生まれたコミュニケーションである。
博報堂ケトルが考える交通広告の機能と事例紹介
機能1:レリヴァンシーが高い
レリヴァンシーというのは直訳すると「関連性」ということだが、情報の受け手が「これは自分に関係ある情報だ」と認識してもらえるかどうかということ。情報が氾濫する現代において高いレリヴァンシーを持つ広告をつくることは需要。実は、アウトドアメディアはかなりレリヴァンシーを高めることができる。なぜなら、場所やタイミングを特定しやすいから、「このタイミングで、この場所で、このメッセージ」を見たら反応してしまうという状況をつくりやすいのだ。グーグルの採用広告は、これから家に帰る学生に問題を見せるという意味で相当レリヴァンシーの高いものになっている。
<事例紹介> スキー場リフトで井村屋の肉まんの広告を展開
機能2:ニュースになりやすい
交通広告は統合キャンペーンにおいて、PRと組み合わせればニュースをつくることができる。つまり、点が面になる。象徴的な街(たとえばOL向けなら銀座とか、若者向けなら渋谷とか)のアウトドアメディアのユニークな広告はニュースバリューがある。
ケトルではアウトドアメディアの表現を考える段階から、ヤフー!トピックスなどでどう書かれるか想定してプランニングを行っている。ネットニュースに掲載されると、さらにツイッターやブログなどでも拡散していく。
たとえば地方エリアのニュースを伝える「みんなの経済新聞」は、ヤフーニュースにも転載されるし、アウトドアメディアのパブリシティのプロモート先として向いている。アウトドアメディアの制作と同時に、ネットニュースへのパブリシティプロモートを行うスキルはもう常識だろう。
<事例紹介>大阪Breeze Breezeのオープニング・プロモーション/KDDI「携帯で5分歩こう」キャンペーン/フジテレビの世界柔道など
機能3:売り場とのクロスメディア
本の交通広告を作ったら必ず近隣の本屋に電話を入れるという風に、売り場とのクロスメディアも必ずやる。交通広告の効果を高めるためには店との掛け合わせも重要だ。
<事例紹介>タキイ種苗 機能性野菜のプロモーション
こうした仕掛けの上に、後はいかに面白いクリエイティブを載せていくかだ。交通広告だからこそできる表現もある。掲出場所は全て事前に見に行き、エスカレーターの速度や掲出場所までの距離などを細かく把握してコピーやデザインに反映。メディアの知識とクリエイティブの知恵を極限まで掛け合わせる。
<事例紹介>映画「私がクマにキレた理由」広告・KDDI「携帯と走ろう」リアルタイムカウンター・KDDI「クイズ鉄道王決定戦」・モーニング/浦沢直樹「ビリーバット」広告・銀座ソニービル広告幕再利用プロジェクトなど
交通広告は場所が持つチカラがあるからパブリシティになる。人々のステレオタイプな町の見方を利用し、インパクトある交通広告を出してネットニュースで拡散させるというやり方は効果的だ。電車内は情報を見る広告、渋谷駅はトレンド広告という風に使い分けたり、クリエイターはどんなコンテンツをどのデバイスに発信していくかを心得た上で表現をしていく必要がある。
まだメディアの売り方は旧態依然としており、逆にクリエイターの多くはアウトドアメディアの機能について詳しくない。交通広告というのは単純に広告枠を売るのではなく、プラスアイデアで非常に効果的なメディアとなるし、クライアントの課題解決にもつながる。売る側とクリエイティブ側がこれからはもっと一体化していくことも重要だと思う。