第6回 人権セミナー

第6回OAAA人権セミナーは、2016年12月6日(火)に電通ホールにて開催。昨今 各種メディアでも取り上げられクローズアップされてきた 「LGBT」 をテーマに、ご自身が同性愛者であることを公言し、同性パートナー とともに弁護士として活躍されている南和行氏にご講演いただいた。 約40余名の参加者にとっては、基礎知識をはじめとして全く新たな 知見を得る有意義な勉強会となった。

「LGBT(セクシャルマイノリティ)を 人権問題として考える」

なんもり法律事務所 弁護士 南 和行 氏

LGBTとは何か?

LGBTは、L:レズビアン(女性の同性 愛)、G:ゲイ(男性の同性愛)、B:バイセ クシュアル(両性愛)、T:トランスジェン ダー(割り当てられた性別との違和)の頭文 字をとった総称だ。同性愛者である私が 「私は男で、同性愛者で、男同士で結婚式 を挙げました」と言うと、「普通の男の人ですね」「女の人の格好をしないの?」「どっ ちが男役/女役でか?」といった質問を受ける。そこには性同一性障害やトランス ジェンダー、同性愛の混同がある。また性 別は単純に男女の違いだけではなく、社会生活や家庭生活の役割にまで浸透している ことがわかる。そういう中でLGBTの人が どんな感覚で生きているのか、まず私自身 の体験からお話したい。

私は小学生の頃から自分が同性愛者であることをなんとなく自覚していた。しかし 世の中は物心ついた頃から男性は女性を好きになる、というのが当たり前。「そうでな い自分は異常だ」「これが知られると居場 所がなくなるのでは?」と不安に思うように なった。大学生になって初めて自分以外の 同性愛者と知り合い、自分自身を受け容れ られないという不安は解消された。しかし 「将来生きる道はない」と思っていた十代の 頃から、ありのままを受け止めて生きてい けるまでには長く苦しい道のりがあった。 詳しくは「僕たちのカラフルな毎日 弁護士夫夫の波瀾万丈奮闘記」という本を参考にしていただければと思う。

「十代の同性愛者の男性44%がいじめに あっている」という研究調査が報告されている。性的少数者は何かと生きづらく、社会の中でなかなか居場所を見つけられず悪循環に陥ってしまうケースが多い。同性愛者の自殺率も高く、研修で行ったアメリカ のLAのLGBTセンターでは若いホームレ スの半数以上がLGBTだとも聞いた。僕ら がこうして積極的に発信しているのは、同 性愛者の若い人達に同性愛というだけで将 来に絶望を感じて欲しくないから。大人になって世界が広がると、必ず自分の居場所 を作ることができると信じてほしい。

性とは何か?

LGBTのうちLGBは性的指向、Tは性自 認の問題で、別次元である。下記のように いろいろな言葉があるが、そもそも性は多 様なので書き切れるものでもない。また分 類にこだわりすぎることは、かえって「変 わり者」を見つける作業にもなって良くな いと考える。

<性的指向>

●ヘテロセクシュアル(異性愛)

●ホモセクシュアル(同性愛)・ゲイ(男性 同性愛)・レズビアン(女性同性愛)

●バイセクシュアル(両性愛)

●アセクシュアル(無性愛)

<性自認>

●トランスジェンダー(割り当てられた性別 について違和がある)

●Xジェンダー(男女の二分に合わない)

●シスジェンダー(割り当てられた性別につ いて違和感がない) 

私は「性」について、割り当てられる性 別、社会で求められる性役割、自覚する性別、恋愛や性の対象となる性別に分けて説明している。人は出生時、外性器の特徴 から男/女に振り分けら れるが、インターセックス (性分化疾患・半陰陽)のようにその境界が曖昧な 人もいる。また成長する につれ「自覚する性別」 というものが育まれる。 「自覚する性別」すなわち 性自認・性同一性が割り当てられた社会的な性別 と一致する人もいれば、一致しない人もいる。一致する人はシスジェンダー、ギャップのある人はトランス ジェンダー。ただそれだけの違いだ。

性的指向は恋愛感情を持ったり性的関心 を抱く相手の性別だ。異性に恋愛感情や性 的関心を持つのがヘテロセクシュアル、自 分と同じ性別に向くのがホモセクシュアル、 いずれの性別にも向くのがバイセクシュア ルとなる。ところが社会では求められる性 役割に「ヘテロセクシュアルでシスジェン ダーである」ことがガッツリと取り込まれて いるため、LGBTの人は葛藤や社会との ギャップを感じ生きづらくなってしてしまう。

LGBTは人権問題である

誰にでも自分自身の「自覚する性別」が あり、自分自身の「性的指向」がある。だ から予め与えられた性や固定された役割に 収まるのではなく、誰もがありのままでい られる多様性=ダイバーシティが大切だ。 性の多様性を確保することが「人権問題」 だというのはLGBTに限らず誰にも通じる 問題だからだ。人にはありのままの生き方 やそれぞれの幸せがある。その多様性を否 定することは差別につながる。「あなたのシ アワセも大切にされる、私のシアワセも大 切にされる」という視点が必要だ。最近は 国連の人権理事会などでもLGBTに代 わって、性的人権の理解を進める「SOGI: Sexual Orientation and Gender Identity (性的指向と性自認)」という呼称が使われ るようになっている。

こうした理解が社会全体として進まないため、LGBTに対するヘイトスピーチやアウティング(同性愛をばらす)を理由にした 恐喝・犯罪は後を絶たない。LGBTがいじめ・セクハラ・暴力の対象となっている。 私が弁護士として関わる事例の中で、特に一橋大学ロースクールの学生のケースを紹 介しておく。同性愛者だった彼は好意を抱いていた友人に告白をするが、その友人にグループラインで同性愛者であることをアウティングされた。心療内科に通うほどの ショックを受けた学生は大学にも相談する が、ほどなくして授業を抜け出して校舎か ら転落し亡くなってしまう。大学側がセクハラ被害として適切な対応をしなかったことが大きな問題だと感じている。

同性愛者にとってアウティングされると いうことが大きな問題だということを知っ て欲しい。「カミングアウトは素晴らしい!」 という前に、「同性愛者だと知られたら曝さ れる差別や暴力や嘲笑の現実」をまず認識 してほしい。LGBTは流行のムーブメントの ように取り上げられがちだが、日本のメン タリティーにおいてはまだまだ受け入れら れていないのが現状だ。

人権の視点からみた企業活動

「知らない」から「わからない」、「わからない」から「気づかない」、「気づかない」 から「傷つけてしまう」、「傷つけられる」 から「言い出せない」、「言い出せない」から「伝わらない」、「伝わらない」から「知 らないまま」になる。LGBTにはこんな悪循環がつきまとう。例えばある広告会社が、 女装した男性のビジュアルで笑いを誘う広 告案をクライアントに提案したところ、クライアント側で「こんなリテラシーの広告 会社は使えない」となったという話を聞い た。典型的ではない男性を笑い者にするという案が、性の多様性に対する意識の欠如だ。胆略的に「面白い」と飛びつく前にそ のアイデアが誰かを深く傷つける可能性が ある。広告業界の方もまずそこに気づいてほしい。

LGBTを意識するということは、殊更 LGBTに理解を示す広告を作ることではない。在日韓国人や同和問題などへの配慮と同様に、LGBTの視点からも問題がないか をチェックすることが大切だ。その際 LGBTの人が社会に対してどういうスタンスでどんな葛藤を感じているかを考え、この問題が社会の在り方と個人の関わり方の 問題だということを理解してほしいと思う。

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