第34回 クリエイティブ研究会

 

「クリエーティブ・テクノロジストの仕事」

電通CD局クリエーティブディレクター 菅野 薫 氏

今までない技術の使い方を発見していく

メディアが多様化し、手段も複雑化する中、僕らの仕事にも多様な技が要求されている。コピーやデザインという専門性で実現する人もいるが、僕の場合それがテクノロジーだった。クリエーティブテクノロジストというのは電通初の肩書き。技術の新しさではなく、今までなかった技術の新しい使い方を発見していくのが仕事である。

Branded Utility × Technology

僕のやり方は一方的な表現を提示して終わるのではなく、クリエーティブチームで作った場に世の中の多くのひとが参加して一緒に作り上げるプロジェクトスタイル。だからCMやグラフィックとは根本的に違い、インタラクティブだったり成長していくところが特徴。更にHondaさんのインターナビの仕事では、これまでの広告制作のような受発注の関係を超えて協業関係でつくっている。インターナビは携帯電話のデータ通信回線を介してHondaと日本中のインターナビ搭載車を結ぶサービス。リアルタイムでいつでも最適な通行情報を提供できる。

当時この技術をちゃんと理解する制作担当がおらず、当時電通総研にいた僕が担当。インターナビの走行データを使ってデザインした表現が評価されCDの役に就いた。

2011年に東日本大震災が発生。その際に被災地支援の為の「Connecting Lifelines」プロジェクトに参加。これはインターナビ搭載車が収集した走行データを解析して通行実績があった道路を可視化し一般公開するもの。本来渋滞回避に使う走行データを、非常時には通行実績のあった道路の情報に転換。東日本の通行の様子を表現していった。

さらにTwitterでも東日本の通行に関するつぶやきを全て回収するプログラムを作成。自然言語処理と人力により解析で現地から発信されたテキストの通行実績を公開。

広告は本来CMやグラフィックを作ること自体が目的なのではなく、ブランドの知識や認識を深め、その価値を多くの人に届けることが目的。そのための方法は何でもいいはずだ。そういう意味でこれまでの広告とは全くカタチの異なる「Connecting Lifelines」は、最新の広告として高い評価を受け、カンヌをはじめ海外で多くの賞を受賞した。

Branded Entertainment × Technology

また「Sound of Honda」というスマートフォンアプリは、歴代のHondaの名車のエンジン音を様々な回転数で収録、自分の車のオーディオにつなげて走行するとサウンドで、名車でドライブする擬似体験を出来るというもの。

このアプリ制作時に回転数やギヤからエンジン音を再現するというシンセサイザーのようなソフトを制作。このソフトをつかった新しいプロジェクトを立ち上げたいと考えた。テクノロジーでストーリーテリングを行い、ブランドとのエンゲージメントを構築したい。それがマクラーレンホンダの伝説的ドライバー、アイルトン・セナの残した走行データからエンジン音を再現するプロジェクトだった。

Hondaのエンジニアによって記録されたアイルトン・セナの走行データ。残された紙データをデジタルデータに変換し、そこからアクセルの踏み込み、ギヤポジション、エンジン回転数、スピード、距離等を解析。鈴鹿サーキットの3Dモデル上に、その走行データから走りをシミュレーション。全長6kmに及ぶ鈴鹿サーキットにLEDとスピーカーを敷き詰めて走りを再現。完成した作品が「Sound of Honda / Ayrton Senna 1989」であった。

この作品はカンヌでは、チタニウム部門でグランプリを受賞。アウトドア、フィルム、サイバーなど7部門で合計15ものライオンを受賞。ACCインタラクティブ部門の初代グランプリ、TV、ラジオ部門でもゴールドを獲得することができた。

この他にも日本初のフェンシングのオリンピックメダリスト太田雄貴選手からの依頼で、「フェンシング×テクノロジー」というプロジェクトにも取り組んでいる。難解なフェンシング競技を誰にでも判り易く可視化して表現した。

また昨年の国立競技場のファイナルイベントでは、参加者が一斉に撮った写真を解析して競技場の最後の姿を3Dデータで残すという挑戦や、56年の歴史最後の15分間の演出を担当し、感動のフィナーレを導いた。

手段や領域も含めて広告自体の定義を変え、テクノロジーの新しい使い方ということに日々挑戦できている現在である。

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