第27回 夏期広告セミナー

第27回目を迎えるOAAA夏期広告セミナーは、昨年同様にオンラインセミナーの形をとって2024年9月3日(火)に開催した。今回のセミナーでは、『なぜ教科書通りのマーケティングはうまくいかないのか ~電通戦略プランナーが教える現場のプランニング論~』 の著者であり、第一線でご活躍中の電通の広告プランナー:北村陽一郎氏に、日々直面する課題を題材に、“マーケティング理論を実際の広告プランニングの場でどう活かせばいいのか?”有名なマーケティングフレームでも、有効に機能するケースとしないケースがあること、それをどう見極めたらいいのかなど、リアルかつ現場で使える 知識をご講演頂いた。例年以上に多い、約230名もの参加登録があった。

テーマ/ 「なぜ教科書通りのマーケティングはうまくいかないのか?」

講師/  北村 陽一郎 氏                                   (電通 第6マーケティング局/統合プランニング・ディレクター)

私は社内でプランニング塾を開催しており、今年3月に講義内容を元に本を発刊した(アマゾンのマーケティング・セールスカテゴリで2度1位を獲得)。今日はその本をベースにしてお話ししたい。所々質問を織り交ぜ、皆さんの意見もチャットでお聞きしながら進めたい。

第1部:なぜ教科書どおりのマーケティングはうまくいかないのか?

毎年マーケティングの優れた考え方やフレームが編み出されるが、それ以前のものを中止することはない。だから現場ではフレーム選びに迷ったり、“接ぎ木”がうまくいかなかったりする。本当は足し算より引き算、特に場合分けの技術が必要とされる。なぜうまくいかないのか、次のようなポイントから考えてみよう。

 

  苦労して決済が通ったプランがうまくいかないのは、してはいけない”接ぎ木”をするから

マーケティングのフレームや考え方がケースと合う/合わないは明確にある。イメージとしては、距離や状況に応じてクラブを選び取る“ゴルフクラブ”に近い。しかし”野球のバット”のように思われている。

 

  間違いのもとは、原理原則的ではないことをそのように見てしまうこと

マーケティングを構成する要素には便益、競合、ターゲット、接点がある。便益(人間の心理)はある程度原理原則と言っていい。童話や歴史物語などを楽しめるのは人間の心理が変わっていないからだ。しかしマーケティングは常に移りゆく。競合、ターゲット、接点も変わっていくので、原理原則ではないことが大半なのである。

 

  マーケター自身が持っているバイアスを意識する。疑いの型は「3つの過剰」

バイアスを疑う際の型は、過剰な一般化、過剰な設計、過剰なデータ重視である。

質問1:過剰な一般化について、ブランド認知はしていないけれど興味や購入意向がつく例は?

例えばすかいらーくのネコ型配膳ロボット。そのぬいぐるみが登場した際、名前を知らなくてもSNSで4.9万「いいね」がついた。新商品のキャンペーンなどでは認知率を重視しがちだが、ブランド名がわからなくても興味を喚起させることは多々ある。過剰な一般化を疑うポイントとは「それはそうだな」「いつも必ずそうだな」を分けて考えること。「ブランド認知を上げる=売れる」は必ずしもそうではないという意識を持つ必要がある。

 

質問2:マーケティングにおける「戦略」の定義とは?

 社内塾では多くの人が“目的達成のための〜”と書くが、“資源利用”という言葉はなかなか出てこない。マーケティングの大家・音部大輔氏は「戦略とは、目的達成のための資源利用の指針」と定義づけ、資源が変わると戦略が変わるほど重要な要素と位置づけている。マーケティングにおける資源とは、ヒト・モノ・カネ・情報・時間・知的財産の6つだ。プランそのものは仮の姿で、プランニングでは資源を洗うことにフォーカスする。つまり資源を洗って、やる/やらないを決めていくことが大事で、出来上がったプランをあまり重視し過ぎないことだ。

 

質問3:子供を進学塾に通わせようとするお母さんには、どんなインサイトがあるか?

「毎日子どもに勉強しなさいと言いたくない」「塾通いを労うことでやさしい母親と思われたい」などといった利己的な意見やうしろめたい意見は、実は調査では出てこない。にも関わらずクライアントは調査をすればわかるはずだと思いがちだ。「世の中の事の大半は、言葉にも数字にもなっていない」という指摘は核心をついている(安宅和人氏の「シン・ニホン」より)。調査=質問への回答、データ=割り算の結果程度に考え、過剰なデータ重視に陥らないようにしたい。

 

第2部 マーケターはどう伝えるか

第2部以降は書籍ではカバーしていない内容となる。どう伝えるかのポイントは以下のとおりだ。

・考えたことを考えた順に話すと、たいていわかりづらくなる。

・要素を出して、いらないものを落とし、流れを組む。

・読んだ人が紙なしで他の人に説明できるように話す。

 

質問4:冷蔵庫が近年大型化している理由は?

冷凍食品の普及、時短のごはんづくり、コロナ・巣ごもり、野菜室、チルド・パーシャル、健康志向、腸活ブーム、高齢化、共働き・家事分担、作り置きなど…考えた要素からいらないものを大胆に排除して流れを組み、流れに沿わないものは落とす。例)共働き・家事分担→時短のごはんづくり→チルド・パーシャル→腸活ブーム…後の文脈へ

なぜ伝えるかは、相手に動いてもらうため(動く=さらに他の人に伝える)。だから読んだ人が紙なしで他の人に説明できるようシンプルで短い話にする。「つまり何を言いたいのか」をフレーズ化し繰り返すと(記憶に残りやすいモーラ数は20以内)、相手の心に残りやすい。

 

第3部 マーケターはどう学ぶのか

マーケターは常に新しいことを学んでいかなければならない。私の尊敬する出口治明氏は「人・本・旅から学べ」と言っているが、最も効率的(投入時間と情報量)なのが本だ。そこで最後に私の本の読み方を紹介したい。一字一句読むと時間がかかるので、まず1冊にかける時間を決める。私の場合は2時間以内。1冊の本に2時間以上かけても吸収できないからだ。

 そして全体の16%の吸収を目指す。本は手紙とは違う。だから自分にとって重要な部分を20%と考え、そのうちの80%、つまり16%を理解すれば良しとしている。自分に重要な16%を探して、そこだけ読むと2時間以内で読める。また本は図書館で借りるのがおすすめだ。幅広く手に取ることができ、面白くなくても返却するだけで済む。だから私の場合常時10冊ほど借りて読んでいる。

読んだ本はブクログで管理し、必ず1冊につきA41枚程度のメモを書く。それをファイルに綴じておくと、プレゼンや打ち合わせなどの際に役立つ。大事なのは読者ではなく記者になること。自分の記憶力を少なく見積もり、書いたり話したり、積極的にアウトプットすることで思考が整理され定着していく。本の読み方に苦労されている方はぜひ参考にしていただきたい。

 

 

 

 

 

Top