第13回 OAAA人権セミナー

第13回目を迎えるOAAA人権セミナーは、昨年同様にオンラインセミナーの形をとって2023年11月17日(金)に開催した。今回のテーマは、持続可能な社会の実現に向け「ビジネスと人権」に対する関心が高まり企業におけるコンプライアンスの重要性がますます高まる状況を背景に「アンコンシャスバイアス(無意識のバイアス)」について大阪公立大学 ダイバーシティ研究環境研究所の巽 真理子様からご講演いただいた。広告コミュニケーション領域における人権尊重にも関連するテーマだけに、昨年を上回る121名の参加登録があった。

 

 

テーマ/ アンコンシャス・バイアス 〜多様な人たちと働くために〜

講師/ 巽 真理子氏

(大阪公立大学 ダイバーシティ研究環境研究所 客員准教授・ひとケア・ワークLab.主宰)

 

1.なぜ「バイアス」が注目されるのか

様々な場面でバイアスの悪影響が出て、それが人権侵害につながる。近年SDGsなどにより、人権への意識が高まってきた。バイアスが生まれる背景にあるのは格差の広がりで、経済的格差を保つために差別が生まれていく。

また「女=家事をする」のように、“自分の当たり前”が、相手にとっては暴力(ハラスメント)につながることがある。それは人事評価や採用にも影響する。代表的なものがマミートラックだ。母親は子育てに専念したいはずだという上司の悪意のない思いやりが、女性のキャリア形成に影響を及ぼす。最近注目されているAIもデータ上のバイアスを学習してしまうので例外ではない。バイアスは「偏見」と訳されることが多いが、そこには価値基準や判断基準も含まれているので完全に取り除くのは難しい。そのため、「バイアスがあること」に気づくのが大切だ。

2.バイアスの元になるもの

バイアスの元になるものの1つにステレオタイプがある。例えば女性は子どもができると仕事を辞める人が多いという統計データが、女性を採用しないという差別を引き起こすことがある。人種、国籍、出身地、性別などの枠組み・カテゴリーを決めるのは、その時々の人間(社会)で、時代や社会のしくみとともに変わっている。

3.アンコンシャス・バイアス(無意識のバイアス)

アンコンシャス・バイアスは誰もが潜在的に持っており、知らず知らずのうちに身につけている既成概念や固定観念のことだ。たとえば、95%が白人男性で構成されたあるオーケストラが、相手の姿を見ずに演奏だけで評価するブラインドオーディションをしたところ、女性の合格率が50%、人種も様々になったという。無意識のうちに審査する側のアンコンシャス・バイアスが働いていた例だ。

日本の就業者および管理職における女性の比率は依然として低い。要因の1つにオールド・ボーイズ・ネットワーク(赤ちょうちん文化)がある。会社の多数派グループの男性集団が作り出す独特のカルチャーのことで、大切なことが非公式な場(飲み屋やゴルフ場など)で決まるところに問題がある。従って子育てや介護などを抱える人はこのネットワークに入れない=活躍できないことになり、ケアを担いながら働き続けるのが難しい職場環境を作りがちだ。こうした男同士の絆をホモソーシャル(≠ホモセクシャル)といい、ホモフォビア(同性愛嫌悪)やミソジニー(女性嫌悪)を伴う結びつきだとされている。

アンコンシャス・バイアスが表面化したものに、マイクロアグレッションがある。これは、有色人種、女性、LGBTQなどのマイノリティ集団に属する人が、何気ないやり取りの中で受けるハラスメント・メッセージのことを言う。例えば「君は女性なのに理論的で、できる人だね」という言葉には、「女性は理論的ではない」というジェンダーに関するアンコンシャス・バイアスが垣間見える。

 マイクロアグレッションは多数派にいる時には気づきにくい。社会(マクロ)にはどの国籍、人種、性別、セクシャリティが優先されるか暗黙のルールがある。日本社会では、日本人の異性愛の男性が最優先されるので、外国人・女性・同性愛者などの少数派にマイクロアグレッションしやすい。これに限らず、相手との関係性の中で力を持っている方がマイクロアグレッションしやすい。

4.バイアスとの向き合い方

組織や社会ができるのは「バイアスを行動に移さない」環境をつくることだ。バイアスをチェックできる組織・制度づくりとして、人事審査に関わる人への研修、書類様式・項目の見直し、選考方法の見直しなどが挙げられる。最近厚労省が推奨する履歴書では、性別欄の記載は任意または未記載でも構わない。選考においては面接前に明確な基準を設けて評価に役立つ質問を作成する、「審査員のバイアス」をチェックする人を審査会(評価委員会)内に配置する、という取り組みなどが行われている。

日頃から指摘し合える雰囲気作りも大事だ。NOと言える「言える化」のためには、言われた時に聴き入れる「聴ける化」が必要だ。これがないと「言えない化」が進んでしまう。

 個人においては、(その関係性の中で)「権力をもっている」ことを自覚すること。そして「自分が、どのようなバイアスを持つ傾向があるか」を確認しておくことも大切だ。

 

コミュニケーション・スキルを磨く

対話には次のようなプロセスがあり、特に1〜3のコミュニケーションを取る前段階が大切だ。

『1.準備(溝に気づく):相手と自分のナラティヴに溝(違い)があることに気づく

 2.観察(溝の向こうを眺める):相手の言動や状況を見聞きし、溝の位置や相手のナラティヴを探る

 3.解釈(溝を渡り橋を設計する):どのようなコミュニケーションを取っていくか、橋を架ける場所や架け方を探る

 4.介入(溝に橋を架ける):実際に行動を起こすことで橋(新しい関係性)を築く』(※)

相手との関係性によるコミュニケーションのタイプは次の通りで、③アサーティブが相手も自分も大切にできる。

①アグレッシブ:自分の利益中心で、相手の気持や状況を汲み取らない                       ➁ノン・アサーティブ:相手を尊重し、自己否定的になって思ったことを言えない                   ➂アサーティブ:状況によって自分の要求を伝えつつ、相手に配慮したコミュニケーションができる。

コミュニケーションのコツとしては、心地よい距離感を保つこと。そして、あなた…を主語にするYOUメッセージではなく、私は…を主語にするIメッセージを使う方が、こちらの言いたいことを相手に伝えやすい。相手を非難したり攻撃するより、自分の気持ちやして欲しいことを具体的に示し、肯定的に伝えることがポイントだ。

自分のアンコンシャス・バイアスに気づくことで、多様な人たちと一緒に働きやすい職場になる。それが暮らしやすい社会を作っていくのだと思う。

(※ 出展:宇田川元一 2019 『他者と働く』 ニューズピックス.)

Top