第8回 人権セミナー

第8回目となるOAAA人権セミナーは、11月16日(金)に大広12階会議室にて50数名の参加者のもと開催された。近年、さまざまな人権問題をテーマにセミナーを開催してきたが、今回はこのセミナー活動の契機となった部落差別問題に再び焦点を当てることとなった。ネット社会の進展によって情報環境が大きく変わる中で、差別的な行為がこれまでと全く異なった形で進行している実態が起きていることを、ネット上のモニタリングをいち早く手掛けてこられた松村元樹氏にご講演いただいた。

 

第8回人権セミナー

「インターネットと部落差別」

講師:反差別・人権研究所みえ 常務理事・事務局長 松村元樹氏

 

インターネットの特性

 インターネットの普及でSNSの利用が高まり、部落差別の発言やヘイトスピーチなどの投稿がTwitterを中心に増加。これまでにない悪影響を及ぼしている。インターネットには次のような特性がある。

1)    時間的・地理的制約がない

2)    これまで以上に人と人とをつなげる

3)    電子空間は現実社会より自己表現しやすい

4)    記録(ログ)が残る

5)    情報発信が容易で広範囲に拡散できる

6)    ネットの使い方は、使う人の価値観や思想、生き方などによって決まる など

こうした特性はプラス面にもマイナス面にも働く。例えばeラーニングなどが人権問題の啓発に役立つ反面、差別的な投稿は時間や地理的な制約なく行われている。差別をなくそうという人達がSNSを介してつながりやすい一方、プロフィールがわかるため個人攻撃されやすい。削除されない限り投稿が残るので偏見と被害を拡充させてしまう。

 

インターネットを悪用した人権侵害

 2016年12月に施行された「部落差別解消推進法」でも情報化の進展に伴う部落差別に関する“状況の変化”が指摘されている。掲示板にはひどい投稿があふれていて、ほとんどが野放し状態。当事者は傷つけられ、多くの人に偏見や悪影響をもたらしている。

デマやフェイクニュースも増加。大津市のいじめ事件では加害者が同和地区出身者だというデマが流れ、多くのヘイトスピーチがSNSに投稿された。また新潟県女児殺害事件のような痛ましい事件や災害などが起こると、必ず犯人は韓国人・朝鮮人だという投稿がある。こうしたデマやフェイクニュースは#によって拡散される。台風情報やニュースなど、人々がタイムリーに関心を寄せる情報に#を使って差別的な投稿を紛れ込ませて拡散させている。

 パソコンでの利用者数が国内6位という「Yahoo!知恵袋」でも人権侵害につながりかねないQ&Aが共有されている。例えば著名人のルーツが韓国や朝鮮、部落にあるというアウティング(暴露)や、同和地区の所在地を尋ねる質問などが取り上げられ、差別を肯定するような解答がベストアンサーに選ばれている。削除依頼をしているが、サービス提供業者は対応に消極的だ。

 

SNSや動画を使った差別が拡大

 ネット技術の進化とともに、部落差別の手法も悪質化している。画像や地図情報を使って同和地区の所在地をターゲティングし、街の写真をホームページで公開して差別や偏見を助長する投稿をし続けるというもの。あるケースでは同和地区内にある企業が名指しで非難されたため、被害届が出されてサイト運営者が逮捕された。ネット上の人権侵害になかなか歯止めが効かない中、こうした投稿が個人や企業の名誉毀損にあたるとした例だ。

2011年に奈良県御所市にある水平社博物館前で、部落差別的な内容を含んだ街宣活動が行われ、ユーチューブに街宣の様子を投稿した。街宣活動をした人物は博物館から威力業務妨害で訴えられたが、投稿動画は既にコピーされている。ツイッターから動画にたどり着く可能性もある。さらに同和地区をターゲットにした動画も次々と登場。多くの人がユーチューブなどで容易に目にすることができる状況にある。

当時の内務省が外郭団体に委託して作成した、「全国部落調査」報告書を電子データ化し、出版物としてアマゾンで販売しようとした例もある。しかし事前に販売中止を要請。販売できなくなると電子データがネット上にばらまかれ、収拾不可能な状態になっている。

グーグルやヤフーではアルゴリズムのしくみ上、「部落」と検索するとマイナスイメージの情報が上位に表示される。ユーチューブも同様だ。東京のある議員が森友問題で8億円も値引きされたのは、あの土地が部落だったからだという演説をユーチューブに投稿。多くの人が信じ、グーグルトレンドでも一時期急上昇ワードになった。フェイクニュースやデマはそれを信じている人にとっては真実なので拡散を防ぐのは難しく、是正するのは容易ではない。

 

インターネット差別に対抗する4つの取り組み

インターネットによる人権侵害に取り組むべく、私たちは主に次のような対策をとっている。

①  実態把握…ネットパトロールを行い、ネット上での差別実態を把握し、削除依頼や通報することが大切である。部落差別投稿の発見には、モニタリング・スクレイピング(自動収集)・データ購入といった方法を用いている。AIを活用した効率的な対策にも期待されるが、現在は地道にモニタリングしていくしかないのが現状だ。

②  防止・規制…最近ツイッターやユーチューブは、悪質な事業者やヘイト投稿者のアカウント停止や凍結措置をとるようになった。グーグルも有益情報の優先化を行うなど、サービス提供者も変化しつつある。2017年に総務省が国内大手のプロバイダー4団体に出した通達も功を奏している。

③  情報発信やネットワーク…正しく部落問題を知ることができる情報や人権情報の発信と、差別を助長・誘発するような投稿には、それを是正するカウンター投稿を行う。多くの削除要請や通報があればサービス提供者も対応するので、そうしたネットワークづくりも必要だ。

④  教育・啓発…この状況を作り出した一番の問題は教育・啓発の脆弱性にあると私は考えている。教育の現場で正しい知識を得る機会が少ないので結果的に差別に加担する若者を育んでしまっている。何もしないことが差別を助長するという認識は、部落問題に限らずLGBTなどにも共通している。

 

今年「保守速報」という韓国や中国への差別的発言が多数掲載されているまとめサイトに、多くの一流企業の広告が掲載されていたことが大問題になった。広告料によってヘイトスピーチが支えられていたという実態をほとんどの企業が把握しておらず、ウェブ広告に対する認識を改める機会となった。経団連や全国銀行協会の行動理念には人権の尊重が明確に謳われている。今後経済界においても人権に配慮した健全なネット社会の発展に貢献することが求められており、私たちも差別を排除するため一層の取り組みや教育・啓発活動を進めていきたいと考えている。

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