第42回 OAAAクリエイティブ研究会

「2022年クリエイター・オブ・ザ・イヤー賞 受賞者講演」

 

第42回OAAAクリエイティブ研究会は、2023年10月31日(火)に、大阪大学中之島センターにて、77名の参加者を前にリアルな形で開催した。昨年度に引き続き、当協会と日本広告業協会との共催で、2022年クリエイター・オブ・ザ・イヤー賞を受賞された栗田氏,メダリストを受賞された中野氏,吉川氏のそれぞれの視点から大いに語って頂いた。コロナ禍以降、オンラインセミナー等で様々な講演を聞く機会も増えているが、クリエイターの生の声をリアルな会場に参加して聞くことのできる講演会は大変好評をいただいた。

 

第1部:2022年クリエイター・オブ・ザ・イヤーメダリスト 

 博報堂 αクリエイティブ局クリエイティブディレクター・PRディレクター

中野 仁嘉 氏

PRが考える広告はなぜつまらないのか?

     〜時代とブランドを“奇抜” に繋ぐ、PR発想の個人的進化〜』

 

僕はPRプランナーとして仕事をしているが、クリエイティブではなくPRの人間が広告を考えるとつまらなくなりがち。なぜつまらなくなるのか、その要因を次のように考えてみた。

  • 表現よりもスピードや正確さを大切にする
  • 主観よりも客観こそ正義である(メディア・オピニオン・調査データなどからのアプローチを重視)
  • “ファクト”という最大の武器は諸刃の剣である(ファクトがない場合に面白い広告は作りづらい)。

こういったPR視点というのは正しいからこそつまらなくなってしまう。ただ世の中の空気を最も鋭く感じ取っているのはPRだと思うので、正しいけど面白いという、PR発想を進化させた広告を日々考えている。今日はそのために実践していることをお話したい。

■実践していること1: SOCIAL<BRAND

今の時代はSOCIALがひとつのテーマ。でも僕はあえて社会課題ではなく、ブランド課題を入り口にしてどうやったらモノが売れるかを考えるようにしている。大塚製薬「CalorieMate to Programmer」はその一例だ。あまり知られていないがカロリーメイトにはリキッドタイプがあり、その認知を高めるためリニューアル時に広告を展開した。大塚製薬にはソーシャルな思想があり、カロリーメイト自体もその思想に基づいた商品だ。

当時はコロナ禍だったため、健康コンシャスの視点で、調査PR&サンプリング&記事広告という企画に落とし込みそうなところ、別のやり口を考えてみた。がんばっている部活生や受験生がカロリーメイト・ブロックのブランド価値を上げているように、リキッドにも前向きなユーザー像があるはずだと考えたのだ。液体なので合理的に栄養を摂取でき、デスクでも手軽に栄養補給できる。こうした商品特性から、合理的に考える左脳労働者=シリコンバレーのプログラマーに辿り着いた。「#打ち込む人にバランス栄養」というコピーや、プログラミング言語によるグラフィックなど、プログラマーの人の心をくすぐるさまざまな広告を制作した。

こんな人に飲んで欲しいという輪郭をはっきりさせるためには、彼らにしかわからない“狭告”が必要だと思った。現在は左脳的に今を生きている人たちへ、とターゲットは広がっている。飲む正しい理由ではなく、飲むイケてる理由で人を動かすことに挑戦できたことで、正しくて面白い広告へと発展できたのではないかと思う。この広告を通してソーシャル感のある案件こそ、そこに甘んじず、面白さを追求することが重要だとわかった。

■実践していること2:CRジャンプ力は低い!というスタンスに立つ

 通常、課題→戦略→クリエイティブとジャンプするが、PRの人はクリエイティブのジャンプ力が低い。だからクリエイティブ→戦略を考えるようにしていて、クリエイティブから戦略に落とし込む、戦略ダイブする感覚で作っている。実際にその方法で成功したのがJBA(日本民間放送連盟)の違法配信撲滅キャンペーン「違法だよ!あげるくん」だ。これは民放連さんの予算が毎年明確ではないので、契約費のかかるタレント案だけでなく、アニメや着ぐるみ案を入れた方がよい、という営業のディレクションを受けて作った。面白くもなんともないが、社内では「なんかいいな」という反応で、その「なんかいいな」を、社内ヒアリングなどを行って調査し、言語化してみた。すると“アップロードしている人は違法だと自覚しており、むしろ見られなかった人に拡散するという正義感すらある”ことを発見。だから違法!やめろ!と高圧的に指摘するより、馬鹿にしている視点が重要だとわかった。

そこでアニメというクリエイティブがいいね!から、アップロードはダサいという空気を作る方が効くという戦略に落とし込んでいき、誰もがなりたくないあげるくんというキャラクターを企画した。さらに“違法”より“捕まる”と言われる方が怖いので「つかまるよ、マジで。」というコピーに落とし込んだ。また愛くるしいキャラクターも拡散に貢献した。いいクリエイティブからのこじつけ、つまり詭弁にこそ戦略の独自性が宿るのだと思う。

 最近広告というものがなんとなくつまらなくなっているのは、広告が正しいだけになりすぎているからではないかと思う。広告にソーシャルを持ち込みたい時こそ、主観で面白いというN1の言葉の方が大事なんじゃないかと思う。

最後に僕の考えるPR発想は、Social but not Interestingではなく、ソーシャルだけど面白いというのを両立させること。それが本当の意味でのPRだし、今の広告にプラスしていきたい僕なりの課題である。

 

 

 

第2部:2022年クリエイター・オブ・ザ・イヤーメダリスト

電通Future Creative Center 第2CRプランニング局グループクリエーティブディレクター

吉川 隼太 氏

 

電通で何を思い、どういう仕事をしてきたか

 

僕はメディア、マーケを経験してクリエイティブへ移動したが、当初は何の結果も残せずに悩んでいた。しかし当時の上司に「辺境がいつか真ん中になる」と言われたことが今も支えになっている。だから同期とは違うところでクリエイティビティを使おうと思い、最初はプロモーション領域で実践。アイスでお絵描きを楽しむロッテ「爽」のお絵描き爽キャンペーンや、神戸新聞の「並べる防災」などが代表的な作品だ。

Case1:伊勢半「私らしさを愛せる」

新たな領域を拓くきっかけとなったのが2018年に取り組んだ伊勢半の仕事だ。伊勢半は総合化粧品メーカーで、「私らしさを、愛せるひとへ。」がブランドメッセージ。その企業思想を若い人にもっと知ってもらいたいというご相談を受けた。ちょうどその時ある記事に遭遇。“化粧をしないことはマナー違反か”という問題定義で、オフィスが私らしさを殺している場所だとわかった。就活市場も、皆同じ服装で自分らしさを殺している場だ。そこで伊勢半の企業思想に基づく新しい採用枠を提案。「顔採用、はじめます。」というメッセージで、私らしさを表現できるメイクや服装で面接に来てもらう採用活動を実施した。その結果パーパス認知率、企業認知率が上がった。

 企業は法人というように、人と同様、思想と行動でできている。だから思想に基づく行動(採用活動や事業活動など)があり、そこに紐づいて伝達がある。広告会社のクリエイティブは主に伝達領域で表現を開発することにアイデアを使っていたが、“活動”を作ることにアイデアを使うことも仕事になるとわかった。社長や経営者、IR、採用、事業…など色々な相手と仕事できるのも面白いところだ。

Case2:ユーグレナ「サステナブル」

 ユーグレナはミドリムシの健康食品やバイオエネルギーなどを作っていて、サステナブルという概念を非常に大切にしている。これを投資家にアピールするにはどんなアクションを起こせばいいか。着目したのが「会社は大人が経営するもの」という常識だ。日本の上場企業の役員は、平均年齢60歳。会社経営は未来のことを考えることなのに、未来の大人が入っていないのはサステナブルと言えるか?ということで、経営に未来の大人を招き入れる「Chief Future Officer(最高未来責任者)」というアクションを始動。18歳以下のCFOを募集する活動を毎年行っている。

企業の行動部分は、対投資家、対社員、採用活動、事業活動、社会的活動など主に5つぐらいに分類できる。こうした領域が仕事になるとわかると、経営者からの相談や経営企画など宣伝領域以外からの案件が増えていった。

Case3:ミツカン「B面レシピ」

 ミツカンのタグラインは「やがて、いのちにかわるもの。」で、いのちをはぐくむ会社という思想がある。人だけでなく地球環境のためにも何かできないかという相談を受け、地球(食べ物)のいのちをはぐくむ取り組みとして、フードロス問題に着目した。アイデアは日常の気づきから生まれることが多いが、その時たまたま家にあったミツカンの「ごま豆乳鍋つゆ」を見て面白いことに気づいた。作り方にある白菜1/4、水菜1/2袋、にんじん1/3本…は、見方を変えれば白菜3/4、水菜1/2袋、にんじん2/3本余るということ。フードロスには野菜の過剰除去問題も含まれるが、そもそも余ることを前提に作り方が記されている。そこで調理で余った食材でもう一品作れるB面レシピを考案。パッケージ裏に載せ、全国でキャンペーンを行った。これは行動領域の社会活動にあたる事例だ。

Case4:ゼブラ「Open Your Imagination」

筆記用具は何かを記すだけでなく、脳を刺激して人間の創造性を促進するものであるという考えがゼブラの企業理念だ。それは「Open Your Imagination」というスローガンにも示されているが、社員が今一つ理解していないというお悩みがあった。

社員にヒアリングすると次のような現状がわかった。iPadを使いすぎて社員自身のペンによる創造性が開化する体験が減っている。社員同士のコミュニケーションが減り、新規事業が生まれにくい状況にある。そこで働く場を変えるべく、「書く」を真ん中に置いて社員同士がコミュニケーションできるオフィス「kaku lab.」を提案。さまざまな「書く」を誘発するオフィスデザインを、建築家を入れてプレゼンした。これは行動領域のインナー活動にあたる事例だ。

Case5:ヤマト運輸

最後に思想→行動→伝達まで行った仕事を紹介したい。ヤマト運輸が、ホールディングス制から事業会社制へ経営体制を再編するにあたり、「未来に向けて生まれ変わりたい」というご相談だった。

そこで指針となるようなスローガン「運送業から、運創業へ。」を打ち出し、メッセージムービーなどで社員に理解を促した。コミュニケーションにおいては「次の運び方をつくる」というタグラインでCMを制作。イノベーティブでありながらヒューマンな温かさがあるという企業イメージも表現に取り入れた。その他組織改編、ブランディング広告、IRサイトの改訂など、3年ほどかけて思想・行動・伝達の活動に関わらせていただいた。

僕が所属するFuture Creative Centerは、未来の企業価値向上をクリエイティブでサポートするので、ドメインは未来だ。クライアントの担当者や経営者、アカデミアも建築家も、未来を野望する人はすべてFuture Creatorだと思う。彼らと伴走しながらアイデアを考えていく中で起こる化学反応が楽しいし、広告会社のクリエイティブがいろんなFuture Creatorと伴走する未来になるといいなと思う。その際クリエイティブの人が個性豊かな辺境を目指していると、もっと面白い未来が作れる。クライアントのさまざまな組織にアイデアを使うようになると、広告会社の価値も上がりそうだし、今後クリエイティブからどんな先駆者(変な人)が生まれるかも楽しみだ。

 

 

 

第3部:2022年クリエイター・オブ・ザ・イヤー

電通 CMプランナー/コピーライター 

栗田 雅俊 氏

 

嘘と愛

 

~ 嘘 篇 ~

今日は私が企画する上で大事にしている「嘘と愛」について話したい。広告はつい嘘をつく。商品をすごく褒めたり、盛って撮影したり、都合のいい嘘をついて、見る側も広告はそんなもんかと受け流している。しかし僕らは「広告は多かれ少なかれ嘘をはらんでいる」ということに自覚的でなければいけないし、嘘の取り扱いには細心の注意を払わなくてはいけない。

嘘の広告が多い現状では、逆に正直に言う方が共感される。日清食品「カップヌードル・パスタスタイル」はそんな考えに基づいたCMだ。「イタリア人が認めなかったパスタ。気にせず、新発売。」というコピーで、イタリア人が試食した意見を正直に公開。一本の動画とサイトのみだったがすごく売れた。普通は“イタリア人が認めたおいしいパスタ“のような広告を作りがち。我々は消費者だった頃は敏感だった嘘っぽさに、作り手になると鈍感になってしまう。

対策は、自分の中に名探偵コナンくんをインストールしておくこと。コナンくんは耳の痛いことを無邪気についてくるので、嘘を流さないための装置になる。企画がうまくいかない時はだいたいどこかに嘘があるから。「面白い」とは「似ていない」ことだ。面白い広告より「似ていない広告」を目指す方が、比較対象があるぶん明確だ。経験上ヒットするものは今までと似ていないものから生まれてくる。私の嘘をつかないという縛りは、似ていないものを作るための方法なのだ。

宝くじ「BINGO5」は最初、名前を覚えてもらうために連呼系CMを展開。しかしどんな宝くじかわからないとのご指摘を受けた。それを受けて反省している事実をさらけ出したら、今までと似てない宝くじのCMができた。

 婚活マッチングサービス「パートナーエージェント」では、ドロンジョとブラックジャックを婚活中の男女に見立てた広告を展開した。婚活マッチングサービスの広告は、美男美女が「運命の人と出会う」というような顔つきのものばかりで、どこか嘘っぽい。実際は見た目や年収などが気になるはずなのでそれを描いた。人間が語ると生々しいのでキャラクターで本来のキャラに嘘をつかないよう、原作の設定に忠実に、人間として描くことを心がけた。

 広告の仕事は常に “嘘”や“大げさ” がつきまとう。「企画をよくする」とは鮮やかなアイデアジャンプを生み出すことではなく、丁寧にアク(嘘ややってはいけないこと)を取り除くようなイメージ。アク(嘘)を除いた澄んだスープが良い企画で、普段から「本当にそうか?」という視点を世の中に対して持っておくことが似てない広告をつくる起爆剤となる。

~ 愛 篇 ~

拒絶されないよう、愛される技術を高めてきたのが広告だ。しかしデジタル中心で人間らしさが失われつつある今、広告にはサザエさんの「カツオ」のような愛らしさが必要だ。若手コピーライターの頃、富士急ハイランドの広告で学んだのは「愛は、人格から生まれる。」ということ。「情報」は無視されるが「人格」で語ると愛される。富士急や日清の広告も、ひとつの「人格」が全体のトンマナとなって強いブランディングになっている。つまりブランドの人格をどう設計し“どう愛されるか”が重要なのだ。

LOTOの広告では宝くじを人格化した。CMで射幸心を煽ることはできないので、宝くじをキャラクター化(コージ・ヤマモト)。人格(キャラクター)を覚えてもらうことで、商品らしい刺激感をCM全体から感じてもらうようにした。

ユニクロ『母の日ギフト』では、お母さんの目線から語る新聞の4連広告を展開。「あたしンち」のお母さんを使い、いらないと言いながらも欲しがる母の本音を、イタズラ精神を持ってさらけ出した。結果、拡散され、ギフトの売上にも貢献した。ユニクロ=母の気持ちがわかっているというイメージを作ったように、“愛は、代弁から生まれる”。自分語りは嫌われるが、誰かの思いを代弁すると愛が生まれるのだ。

『サントリー生ビール』のCMも、みんなの想いを代弁するという視点で作った。国民的生ビールを目指す新商品だからこそ、ただビールのうまさを語るだけのものにはしたくなかった。戦争やコロナで死を身近にしたからこそ、今”生きる”ことを全肯定したい。そんな想いを込め「生きれば生きるほど生ビールはうまい!」というコピーを書いた。

SUNTORY『人生には、飲食店がいる。』は、コロナ禍で最も打撃を受けた飲食店に何かできることはないかと始まったのだが、炎上の恐れもあって企画は難航した。きっかけは「これまでずっと飲食店に支えられてきたのに、行く習慣そのものを忘れつつある」というサントリーの方の言葉だった。ならば飲食店の記憶を呼び覚ますような広告を作ればいい。「飲食店に行こう」ではなく、これまで飲食店に支えられてきたという事実だけを伝える広告を作ろうと考えた。みんなの中にある飲食店への「愛」を言語化する意味で、ポスターもたくさん制作。サントリー営業の方がお店に届けてくださり、飲食店との具体的な接点にもなった。結果的にたくさんの飲食店から感謝されたのだが、実は当初はクーポンなど実弾の方が効くのではないかと不安だった。しかし言葉には、広告には、誰かを救う力があった。

ちなみに当初のコピーは「私たちには、飲食店が必要です」だった。意見広告としては強いが、愛せる感じがない。「人生には、飲食店がいる。」は、サントリーと飲食店とみんなの人生の話で、人が微笑んで寄ってきそうな感じを目指した。意見広告で終わらせず、ひとりひとりの“小さな想い”をすくいとり、具体化して描いたことで、愛が生まれた。

愛は、人格、代弁、具体。それらはAIから最も遠い、人間らしい概念だ。すべての広告は人間に向けられているのだから、“人間らしくあること”を描いた先に愛がある。縛るものがあると企画は強くなるが、僕の場合はそれが「嘘をつかない」「愛らしくやる」だ。

東日本大震災でCMが自粛された時、世界が止まってしまったようだった。普段はうざいが、いつも前向きなことを言う広告は世界が前進していることの確認でもあり、希望だと思った。いま広告は、共感・拡散・短期的KPIを前提に考え過ぎていて、すぐシェアできない、役に立たなそうなものは低く見積もられがち。でも次の時代をつくるものは、すぐに結果が出るやり方では生まれてこないかもしれない。言葉は人の心で育つ種なので、嘘の種ではなく、いつか芽が出る愛の種を植えるつもりでこれからも広告をつくっていきたいと思う。

 

 

 

 

Top