第38回 クリエイティブ研究会

第38回OAAAクリエイティブ研究会は、2018年10月31日(水)に大阪大学中之島センター10階佐治敬三メモリアルホールにて 開催。昨年来のクリエイターオブザイヤー受賞者の複数名に講演いただく日本広告業協会との共催形式も認知され、佐藤雄介氏と 奥山雄太氏ご両名の講演に、140名を超える聴衆が詰めかける盛会となった。

第1部

2017年クリエイター・オブ・ザ・イヤー

佐藤 雄介氏(電通)

 僕が関わる仕事ではマスメディアとウェブに同じくらい力を入れていて、そこに人とブランドが接するリアルな施策を組み合わせる。マス・WEB・リアルの3軸で、力強いオリジナリティのあるキャンペーンを実施してきた。広告が大変な時代だと言われるが、クリエイティブは今が一番面白いと本気で思っている。

カップヌードルの マスプロモーション

 カップヌードルのターゲットはアンダー30で、特に10代の中・高生にアピールし、100年ブランドの足がかりとしたい。僕がCMを作る時に大切にしているのは、その商品が持つ世界感(シズル)と世の中との接着点を探ること。それを“青春”とし、作ったのが「HUNGRY DAYS」シリーズのCMだ。「誰にでも青春はある、そのすべての青春をカップヌードルは応援したい」がコンセプト。あの国民的ヒロインが現代の高校生だったらという設定で、「魔女 の宅急便」のキキ、「サザエさん」「アルプスの少女ハイジ」を取り上げた。キャッチコピーは「HUNGRY DAYSアオハルかよ」。青春とそのまま言うのは気恥ずかしいので「アオハル」と読み換え、「かよ」で少し揶揄するぐらいがちょうどいいと思った。
 今の世の中は情報がありすぎてすぐに飽きられる。だから簡単に消費されない広告を作ろうと思い、何度も見たくなる内容やアニメの中に仕掛けを施すなど、ネットで話題化されすいものを目指した。一方で国民的アニメはTVの情報番組などで取り上げられやすい。マスとWEB両方を意識した結果、この年最もツイートされたCMとなった。

カップヌードルの WEBプロモーション事例

 WEB施策とはWEB発でニュースをつくること。ミルクシーフードヌードルでは、赤字が入って変わっていく同商品の広告ビジュアルを題材にした。上司からダメ出しされてビジュアルがどんどんカオス化していく様子を公式アカウントでツイート。実際にありそうなリアル感が話題を呼び、18万ツイートぐらいされた。拡散していくかどうかは、ネットの文脈やリアリティをどう捉えるかが大事になっている。
 カップヌードルの肉は“謎肉”と呼ばれていて、その肉がたっぷり入った「謎肉祭」という商品がある。そのプロモーションとして、謎肉と同じくらい謎な「名探偵コナン」に登場する犯人“犯沢さん”を主人公にしたWEB漫画を公開。謎肉の真相を暴くというストーリーで、TVでも取り上げられるようなWEBのキャンペーン企画を実施した。

カップヌードルの リアルイベント企画

 シーフードヌードルを夏にプロモーションしたいということでイベントを企画。あえて、誰も来なそうな場所でイベントをやることで、逆にニュースに取り上げられることを狙った。海の日に、海のない“群馬に海がやって来た”と銘打ち、山の中に海の家を建設。
 しかし当日は、想像以上に人が集まり、ほのぼのとしたイベントになった(笑)。会場では「シーフードヌードル群馬」もプレゼント。地域とのコラボ施策として地方紙などでも取り上げられた。
 このようにカップヌードルというブラ ンドをマス・WEB・リアルの3軸で展開し、過去最高の売り上げを記録した。

日清焼きそばU.F.O.の事例

 日清焼そばU.F.O.では、藤岡弘、さんと中川大志さんを起用してヒーロー物のCMを展開。U.F.O.のSF感・焼そばのB級グルメ感・濃い(ソース味)から、タレントは藤岡弘、さんに行き着いた。WEB施策では①新商品から始める企画、②記念日から始める企画を考案。①は近畿中心に販売されているプチU.F.O.を、その特徴を生かしつつ「プチUFOビッグ・コバラにパンパンサイズ」として関東で販売。プチ藤岡弘、さん にたとえて新聞広告や動画を展開した。②は、U.F.O.が初めて目撃された6月24日をU.F.O.の日として盛りあげようというもの。さまざまな未確認“藤岡”物体が登場するムービーをはじめ、フィ ギアも制作した。

ポカリスエットの事例

 カップヌードルと同じロングセラーブランドのポカリスエット。10代のファンを増やしたいという課題を解決するため、ダンスCMを制作した。「自分は、きっと想像以上だ。潜在能力を引き出せ」というキャッチコピーで2015年からキャンペーンがスタート。僕は2年目から参加した。ポカリと10代を近づけるため、中学で必須になったダンスに着目して設計。それもスポーツとしてのガチダンス。マネしにくい難しいダンスに本気で挑戦するリアルがフィルムの強さになった。
 WEBやマスでもダンスをテーマにプロモーションを実施。「MixChannel」ではダンス動画を投稿できるようにし、マスではTV-CMのほか踊り方動画も公開した。リアルでは、2500人が一緒に踊るイベントを実施。そして投稿動画やイベントの映像を集めてもう一度TV-CMでオンエアした。CMをやってWEBで拡散させて、リアルで体験して再び日本中で踊るCMへ。CM映像と投稿動画、レイヤーの違う表現の共存が今っぽさだと思う。

マルコメの事例

 若者と味噌との関係づくりが課題で、マルコメのリクルート施策として商品開発やWEB施策などを行った。「見たことのない組合せ、知っているのに新しいは強い」という考え方で、ロック×味噌をテーマに味噌汁’sとコラボし、ロックを聞かせた味噌を開発。その商品を軸にムービーを作ったり、ライブ会場や原宿などでプロモーションを行った。第2弾は「MISO KAWAII」をテーマに原宿味という味噌汁を開発。初代マルコメちゃんのオーディションや、原宿に味噌汁スタンドなどを展開した。

 今から5年ぐらい前はよく「何が正解か、何を以て成功かわからない」と言われた。でもそれは逆に言えば何でもできるということで、今日ご紹介した事例のようにアウトプットの形はいろいろある。マス・WEB・リアルを組合せることでいくらでもオリジナリティを出せるし、映画やドラマでできないことも広告なら可能になる。だから広告クリエイティブ時代は今が一番面白い。その醍醐味が少しでも伝わるといいな と思っている。

 

 

第2部 「POWER OF FILM」

2017年クリエイター・オブ・ザ・イヤー メダリスト

奥山 雄太氏(SIX/博報堂)

 CMプランナーからデジタル系の部署に移動になってオンライン動画に携わるようになった頃、CCレモンの「忍者女子高生」が業界を席巻していた。同コンテンツに代表されるように、当時バイラルムービーでは「企業色を出さない」という通説があったが、CM出身の人間として強い違和感を覚えていた。現在も「ブランド」と「動画」の狭間で試行錯誤しており、映像は最強のブランド体験装置だと考えている。

PS4「GRAVITY CAT」

 「GRAVITY DAZE 2」というゲームの発売を話題化するために制作した自主プレ企画。ブランド色が強いけれどバイラルするという動画にチャレンジ。プレステのCMには数々の名作がある。ゲームの魅力を現実世界に置き換え、わかりやすく伝えることがこれまでのゲームCM文法だった。これをベースに、現代的なインターネット動画文法にできないかと考えた。そこで“重力アクション・アドベンチャー”というゲームの世界感を、話題化されやすいネコ動画とトリック映像を組み合わせて表現。誰も見たことのない“猫動画”にしようと考えた。
 企画のアイデアはシンプルだが、それをどう心を動かす映像にするかという過程でいつも数十倍の頭と労力を使う。例えば見ている人が離脱しにくいよう「5秒に1回のWow」を用意。重力変化の驚きだけではなく、ネコ動画のツボから「かわいい」をかわるがわる喚起させ、ワンカット編集で撮影した。「リアルに撮る」×「リアルに感じさせる」ことにより予想外のWowを作り続けられる。さらに「すごい」「かわいい」「笑える」など、見る人の感情の振り子を360℃動かすことで長い動画に釘付けにさせた。

PS4「LINE UP MUSIC VIDEO」

 当初は新作ソフトのフッテージ素材を編集して販促用動画を作るというオーダーだった。それでは面白くないので、販促チラシはブランドをつくれないという壁を超えるようなものを作りたいと考えた。そこで「PlayStationが、遊び心を発信するブランドとして再びリスペクトされる存在になる」ことを課題に設定し、販促チラシからブランドコミュニケーションという大きな物語へ格上げした。
 ゲームのカタログだけど、音楽と映像のグルーブがブランドの遊び心への高揚感を作っていくというもの。この高揚感がゲームをやっているシズルにも近い。さまざまなアーティストとのコラボレーションにより、PlayStationのアイデンティティである遊び心を広げることができる。一発打上花火が多いオンライン動画のなかで、ブランドの価値を蓄積しつづけるコミュニケーションフレームのようなものを実現できていると思う。継続することでチームのクラフトの技術も上がるし、アーティストとの協力関係も広がり良いスパイラルが生まれている。

PS4「FREE STYLE DESTINY」

 オンラインFPS(ファーストパーソン・シューター:本人視点のシューティングゲーム)プレイヤーを開拓するというオーダー。「FPSは戦場」というインサイトがあり、コアプレイヤー中心のクローズドなコミュニティになっていた。このため自分のスタイルで気ままに楽しめるというイメージにパーセプションを変えることを課題に設定した。
 ゲーム内でユーザー同士がコミュニケーションする際のダンスに着目。「Freestyle Play Ground」と定義して、プレイヤーたちが自由にセッションする楽しさを伝えた。「ゲームのスピリットを変えた」などと特に海外からの評価が高く、クライアントにもゲームファンにも喜んでもらえた。

BEAMS 40周年記念動画

 「モノを通して文化をつくる」というのがBEAMSのブランドビジョン。ブランド自体を称賛するのではなく、ブランドが背負うカルチャーを称賛する企画。40年のファッションと音楽の文化を5分のMVにした。コアに志の高いスピリットがあるから、たくさんの人を巻き込んだコラボレーションが実現した。

Softbank「 Google Pixel」

 Googleのスマートフォン「Pixel」の取り扱いキャリアを広告するCM。GoogleとSoftBank、2つのビッグブランドがAIというテーマで出会う。AIに対してはブランド的にも世の中的にも未知な状況。だからブランドの持つ“問い”こそが世界に対するブランドの姿勢を体現すると考えた。キャッチコピーは「OK Google、僕達の進化は誰かを幸せにできる?」。Superorganismの楽曲が肩に力の入りすぎないポジティブな軽妙さを加えるCMに。

SUMMARY

 映像は最強のブランド体験装置だと思っていると述べたが、その上で大切にしていることがいくつかある。まずブランド的×インターネット的。ブランドの中から話題化できるポテンシャルを見つけ、それをコンテンツ化して世の中に広げていくということ。エンターテイメントコンテンツが愛されることでブランドも愛されていく。2つ目はブランドへのカタルシスをつくること。せっかく面白いコンテンツを作っても、最後に安易に商品に落とすことでそれまでの高揚感が台無しになる。最後にタグラインに落とすのではなく、エモーションでブランドを上げることが僕らの仕事。3つ目は、動画は「統合」芸術だということ。コアアイデアが器とすれば、そこに無限のネタを盛り込むことができる。4つ目はリスクがリスペクトをつくる。ネットには無謀な遊びをリスペクトする文化がある。だからブランドがリスペクトを獲得するためには、ユーチューバーたちと同様に、リスクや熱量をかけてやるべきだと思っている。

Top