第24回夏期広告セミナー

第24回夏期広告セミナーは、新型コロナ緊急事態宣言の中、129名の参加登録者に対してオンラインセミナーの形をとって2021年8月31日(火)に開催した。今回のテーマは、「SDGs」。昨今の報道では、この言葉が出ない日はないほどであるが、意外にも、その本質部分の理解解釈はあまり進んでいないとの指摘もあがっている。そこで、この分野での第一人者である横田浩一様に、われわれ広告コミュニケーションに従事する者として知っておくべき本質部分をご講演いただくこととなった。

SDGsの本質〜激変する企業環境〜

講師:慶應義塾大学大学院特任教授/横田アソシエイツ代表取締役 横田 浩一氏

SDGsの概要と考え方

SDGs(Sustainable Development Goals)は2015年国連において定められた、17の目標と169のターゲットからなる2030年までの目標だ。「誰ひとりとりのこさない」というキーワードのもと、環境や社会課題に対しすべての国が対等な立場で行動し、国や自治体、企業、NGO など多くのステークホルダーが経済・社会・環境の各分野で統合的に取り組むことが求められている。

世界的に見ると日本のSDGsランキングは18位で、特にジェンダー平等の達成度が低い。再生可能エネルギーへの取り組みも重要な課題だ。国内では2017年に「ジャパンSDGsアワード」が創設され、優れた取り組みを行う企業・団体を表彰。SDGsの普及を促している。

「SDGsの本質/御友重希氏・原琴乃氏との共著」の中で、SDGsの本質を次のように特徴づけた。

  1. バックキャスティング:2030年のありたい姿から今を考える
  2. マルチステークホルダー:異なるアクターのつながりによる変革
  3. 自分ごととしての行動:内発的動機付けからのアクション

ありたい未来から思考し、アウトサイドイン(外部の意見を聞く)で目標を設定。サステナビリティな視点から企業価値を高めていくことが重要だ。日本企業はリスクを潰すことが得意だが、達成するためには機会を「自分ごと」として捉え行動していくことがもっと大切になってくる。

ESG投資の概要と影響

いまE(環境)S(社会)G(ガバナンス)に取り組む企業に投資する「ESG投資」が増大している。日本のGPIF(年金)もESGを考慮し、国連が提唱する責任投資原則(PRI)に署名。ESG投資は企業のSDGsへの取り組みを参考にして行われるので、非財務情報の開示が株価の変動に影響を与えている。今後グローバルにESG情報の開示すべき項目が決められ投資の重要な、新たな指標となっていく。

ESG情報はリスクとオポチュニティ(持続的に成長するための機会)の両方について開示する。経産省が発表した「伊藤レポート2.0」でも非財務情報の重要性が指摘され、SDGsやESGは企業価値を形成する無形資産に含まれている。ただ、投資家は情報が十分に開示されているとは考えておらず、企業との間には意識のギャップがある。

「TCFDコンソーシアム(気候関連財務情報開示タスクフォース)」は、気候変動に関するリスクやオポチュニティの開示をガバナンス、戦略、リスク管理、指標と目標の項目について推奨。投資だけでなく融資の点からも情報開示を求めるようになっている。

大/中小企業の導入事例と活用のポイント

「サラヤ」

ウガンダでは手洗いを基本とする衛生の向上のための取り組みを推進。またパームオイルの調達地であるボルネオにおいては、売上の1%を環境保全活動に還元する生物多様性をテーマとした「コースリレイテッドマーケティング」を実施。オラウータン生息地の森を守る「緑の回廊計画」を展開している。

「日立製作所」

日立製作所が「社会イノベーション」といい始めたのは2010年頃だ。2000年代後半からの川村改革後、そのあとを継いだ中西宏明会長が事業を整理、統合していった過程の中で、「社会イノベーション」を標ぼうし、結果として社会課題を解決する事業が残った。経済価値のほかに社会価値、環境価値を中期経営計画として位置付け、社会イノベーション事業の推進こそが日立の体質を強化していくとしている。

「丸井グループ」

2050年の超長期ビジョンを策定し、重要なステークホルダーに‘将来世代’を加えた。さらにSDGsの視点から既存のビジネスモデルを変革。ネット主体の店舗運営や新分野への投資などを行っている。その結果、苦戦する流通業界の中で同グループは企業価値を向上させた。

「ナカダイ/モノファクトリー」

産廃処理事業を営むナカダイの廃棄物処理ノウハウを活用して、コンサルティング会社モノファクトリーを設立。オフィス家具などを中古品として流通させる「リユース事業」、廃棄物を新たな商品として再生させる「使い方を創造する事業」、商品の販売後・使用後の回収スキームなどを考える「コンサルティング事業」を行う。コンサルティングに積極的に取り組むことが優秀な人材の獲得にもつながっている。

機会(オポチュニティ)をビジネスに活かすためには

毎年30の「SDGs未来都市」が選ばれており、SDGsは地方創生のテーマにもなっている。また新しい学習指導要領には「持続可能な社会の創り手の育成」が明記され、学校では探求学習や総合学習でSDGsについて学ぶ機会が増えている。将来こうしたSDGsネイティブ世代が社会に出た時、購買行動や就職意向などに新たな影響を与えていくだろう。

IPCC第6次評価報告書では「人間の影響が大気、海洋および陸域を温暖化させた」と明記された。日本政府は2050年までにカーボンゼロの目標を掲げたが、再生エネルギーへの転換は日本の産業界にとって重大な課題だ。住・移動関係においてもさまざまな変化がもたらされ、いろんな改革が必要になってくるだろう。

各社まだマーケティングやコミュニケーションにまで及んでいないのが現状だが、このテーマでいかに戦略を立てるか、コストアップをどう価格転嫁していくかが今後のポイントになる。またSDGsへの取り組みをブランディングしていく上では、善行を自ら伝える難しさがあり、そこに広告業界の知恵が生かされるのかもしれない。リスク面では昨年策定された「ビジネスと人権の行動計画」には企業が守るべき項目が定められており、ビジネスと人権も注目されている。これらを理解した上で、今後のマーケティングやコミュニケーションに取り組んでいただきたいと思う。

(この内容は横田氏の講演を元にOAAAが編集したものです)

 

 

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