第22回 夏期広告セミナー

第22回のOAAA夏期広告セミナーは、2018年7月23日(月)に大阪大学中之島センター10階佐治敬三メモリアルホールで、約115名の参加者を迎えて開催された。講師は、ブランディングを基本として、数々のCI・VIを手掛けてこられたグラフィックデザイナーの大崎淳治氏。シンボルマーク及びデザインを作成する際にどれほど多くのことを考え、さまざまなアプリケーションへの展開を想定し、常にクライアントの期待をはるかに超える確固たる世界観を提案し続けてきたかをうかがうことができ、若い方々には強烈な刺激を得る機会となった。

 

Give! Give! Give! 与えて、与えて、与えまくれ!

講師:グラフィックデザイナー 大崎 淳治 氏

Give! Give! Give!
与えて、与えて、与えまくれ!
僕もまだ50代、まだまだ働かないといけないし、稼がないとダメ。
そして、今回のテーマは、
慈善事業しろ!とかっていうお話ではない。
そしたら何をいったい与えるねん!
っていうお話をしたい。

20年前に気づかされたGiveの姿勢

タイトルのGive! Give! Give!には、僕の若い頃の経験が元になっている。ある会社に自分の作品を持って営業へ行ったところ、そこの会社の社長さんから「ウチのショーケースはもう見てくれたんか?」と聞かれた。しまったと思ったが、見ていませんと正直に応えると「あんたの自慢話を聞くヒマはない、帰ってくれ。もし次に営業に行くなら、そこの会社のことを調べて調べて調べまくることだ」と助言された。確かにその時の自分は独立したばかりで「仕事が欲しい」「お金が欲しい」という気持ちだけ。Giveのかけらもなく、Takeばかりを考えていた。あれから20年、僕は常にGiveという姿勢で仕事をしてきた。
僕の事務所は池田市の「ANTEROOM APARTMENT OSAKA」というシェアハウスにある。男女併せて50人ぐらいが居住、僕だけが事務所兼アトリエとして利用している。以前大阪市内の事務所では1日中パソコンに向かって誰ともしゃべらない鳥籠の孤独だったが、ここは多彩なシェアスペースで構成され、アート・グラフィック・本・音楽など、創造性を刺激するアイテムも充実。新しい刺激に満ちた空間。そして居住者の交流が盛んですごく楽しい。シェアスペースで一緒に食事をしたりイベントをやったり、たくさんのGiveがある。僕以外は20-30代が中心で、若い感性やエネルギーを常にGiveしてもらっている。

デザインをする上で大事なことは、Giveすること、理念、哲学、楽しさ、わかりやすさ、独自性、持続性、魅力的かどうか。社会性があるか、暮らしを見つめているか。新しい、ウイット、物語性・・・といったいろんな角度から考え、検証しながらデザインしていく。

僕がこれまでどのように
仕事でGiveしてきたかを
これから、お見せする具体的事例で
少しでも感じてもらいたい。

The Bund Tea Company Shanghai

上海にあるティーサロン&ショップのロゴのコンペ。なぜ上海なのかをずっと考えていたら、200年前上海は紅茶の茶葉発祥地ということがわかった。さらに調べてみると、いかに速く茶葉をロンドンに届けるかを競うティークリッパー(帆船)というティーレースが繰り広げられていた。こうした物語があることを知って、航海&帆船をコンセプトにロゴをデザイン。その物語も一緒に味わって欲しいと思い、パッケージなどのデザインにも反映した。
僕はこんな素敵な物語を聞いた以上物語をGiveせずにおられない。ロゴデザインのコンペなのに、業務用の包装に至るまでさまざまなアプリケーションに物語性のあるデザインを提案した。同じ港町にある神戸のホテルがデザインに目を留めてくれ、思わぬところでコラボレーションにも発展した。

泉宏建設のブランドコミュニケーション

建設・建築の原点とは、“人々のしあわせの場”を与えることではないかと考えた。しあわせという形にしづらいものを青い鳥で表現。安らぎや温かみをイメージさせるハートのシルエットを用いて、あおちゃんという青い鳥のキャラクターをデザインした。あおちゃんをつくることでいろんなコミュニケーションが広がった。
例えば社屋の風見鶏にあおちゃんを起用。建築中の囲いや養生シートにあおちゃんを描くだけで楽しい雰囲気になる。小学校の建設が多い会社なので、子どもたちにも大人気となった。社員の方全員にインタビューし、一人ひとりのキャラクターや個性を表すあおちゃんを作って名刺の裏面にあしらった。業種柄寡黙な方が多い中、あおちゃんがお客さんとの会話のきっかけにもなっていく。
デザインはコミュニケーションを豊かにすることなんだ。

カトリック教会ステーショナリーデザイン

カトリック教会の牧師さんの名刺をデザインした。白い紙に折り目をつけることで十字架を表現、これを立てるとどこでもミサができるというアイデア。但し1枚1枚自分で折らなければならない。しかし取材で感じた几帳面な牧師さんならきっとやってくれると思った。事前に何度も会い、“折り目正しい”性格を知り得たからこそ実現したデザインだ。
デザインは色やカタチだけではない、その本質にどこまで寄り添えるかが大切。

日本ソムリエカルチャー学会ステーショナリー

デザインは現場を見ることも大切。日本ソムリエカルチャー学会のステーショナリーは、現場からヒントを得たデザインだ。毎回ワークショップでは、白い紙を敷いた上にワイングラスが並べられるのだが、終了時にはその紙にワインの染みがつく。通常は廃棄される染みのついたその紙を再利用して名刺、封筒便箋をデザイン。ワインの染みはアートのようで、香りも残っていて臨場感がある。このように僕は現場を見て、五感を駆使してデザインしている。

エキスポシティ 「NIFREL」のVI

「生きているミュージアム」というブランドメッセージに基づき、ロゴマークは頭文字のNを躍動的にデザイン。水を飛ばすテッポウウオをイメージした。生きているのだからロゴやデザインにも命を与えなければならない(まさに、命をGive!)。そこで自主的に動画を作って提案。1周年記念ロゴも含めてさまざまな動画を制作した。

阿倍野ハルカスの展望台「HARUKAS 300」のブランドデザイン

キーワードは、見る・300・高い・驚き・爽快感・・・。展望台から一望できる景色は変化し続ける。そこでロゴマークには、変化していく雲、300、笑顔をモチーフにデザインし、ワクワクする楽しさを表現した。またアプリケーションによって雲の形を変化させるデザインを展開した。ロゴマーク提案は数パターン作り、どの案にも全てのアプリケーションを制作。商業施設は、楽しさをGiveすることが永遠のテーマだと思う。

アインシュタインが残したGiveの格言

Giveするということは、相手に寄り添うことで、まだ気づいていない素敵なところを見出し、もっと魅力的にしてあげることだと思う。五感を駆使して寄り添ったら、必ずヒントが見えてくる。だからGiveする姿勢が大事だということ。それはプロの技術論ではなく、心構えの問題だ。「The value of a man should be seen in what he gives and not in what he is able to receive.:人の価値は、何を得たかではなく、何を与えたかで決まる」。100年前にこんな格言を残したのはアインシュタイン。この格言を見つけた時、僕は感動した。
今日は、Giveすることの大切さを、
ここにいる皆さんと、アインシュタイン博士と僕とで共有できたら幸せです。

 

 

Top