第16回交通・屋外広告セミナー

コロナ禍でDXは交通・屋外広告の分野でも大きく加速しました。随所でデジタルサイネージが瞬くようになった今、いったい何がどこまで実現し、どこへ進んでいくのか。2022年3月16日に開催した「第16回交通・屋外広告セミナー」にて電通唐澤氏と博報堂DYアウトドア三浦氏に大いに語っていただきました。          

第1部:コロナで明らかになったOOHの課題

講師:株式会社電通 アウト・オブ・ホーム・メディア局 事業統括部長 唐沢 央氏

イギリスのOOHマーケットからの学び

今日はOOHの現在と未来について、イギリスのPosterscopeに赴任していた経験も交えてお話ししたい。イギリスはDOOH比率が6割を越えるデジタルサイネージ先進国だ。その一方で従来のOOHも併用しつつロケーションバリューの最大化を図る取り組みが積極的に行われている。日本のOOHはまだコロナ以前までには回復できていないが、イギリスは21年から125%回復している。ロックダウンと緊急事態宣言の違いはあるものの、その要因について私の元同僚は次のように分析した。1つは「Route」の業界標準データがあったこと。もう1つはオリジナルデータを活用して広告主とコミュニケーションを継続してきたことにあるという。

ご存知のように「Route」はイギリスのOOHにおける業界共通指標データだ。2020年にはデジタルサイネージ化に対応するため大幅なリニューアルが行われ、標準データに基づくプランニングは当たり前になっている。ただコロナ禍においては即時性のあるデータは使えないため、さまざまなデータを駆使して広告会社や媒体社がリアルタイムの動向を積極的に情報発信して来た。このような努力がOOHメディアを出稿することへの安心感や信頼感を醸成し、成長軌道に結びついていったと考えられる。

22年春、日本の現状

現在日本ではさまざまなオーディエンスメジャメント検討会が各所で行われており、メジャメントの標準化が急務となっている。弊社もNTTドコモさんとのJVであるLIVE BOARDで「モバイル空間統計」などのデータを活用し、インプレッションによる配信・検証を可能にするOOHメディア事業を開始。広告主様に安心してOOHを使っていただく活動を強化している。コロナ禍でも駅ジャックや大型サイネージなどは活況だったが、ソーシャルリスニングを用いてOOH関連のSNS上での投稿を可視化し、OOHの独自価値を明らかにするということもやってきた。詳細は昨年のWEB電通報をご参照いただきたい。

イギリスのOOHから学ぶポイントは、標準化、オリジナルデータ、情報発信啓蒙であった。加えて、急激に進むデジタル化の中で拡大するビジネスチャンスを先んじて掴むことが重要だと彼らは指摘する。ではここから未来についての話は三浦さんをお迎えしてお話ししたい。

 

第2部 対談 これからのOOHはどこへ向かうのか

対談者:株式会社博報堂DYアウトドア デジタルプロデュース部部長 三浦 暁氏

唐沢:Global OOHのプレーヤーであるPSIとKineticがそれぞれ発表している「2022年のOOH Prediction(未来予測)」から、三浦さんと検討すべき両社共通の事象を4つ挙げてみた。①新領域はAR/MRの世界をOOHとどのように繋げて同時に使っていくか。②データ領域ではMobility First、Real time、Privacy-firstがキーワードに。③配信領域はAutomation & Dynamic Creative、Automatic technologyで、取引の自動化や最適なクリエイティブの自動生成。その場所やオーディエンスに合ったContextual solutionがますます花開くだろう。④コンテンツ・クリエイティブの領域はBeyond Screen、Customized Creative。自由な発想で既存の枠を超えた発信を行うことにより、SNS上でのバズも起こしやすくなる。例えば配信領域では、花粉指数連動によるプログラマティック配信などがある。新領域&コンテンツ領域ではOOHの新たな表現方法としてドローンが使われる可能性もあるだろう。とはいえデジタル社会が進んでもやはりリアルなイベントは生活者へ訴求しやすい。Real experienceの重要性が今後も重要になるというのが両者共通した見解だった。

三浦:まず未来予測の「新領域」についてだが、昨今活況を呈するNFTと交通・屋外広告は非常に親和性が高い。タイムズスクエアでもNFTコレクションが連日放映されている。弊社グループ「Play Asset」でもブロックチェーン技術を活用したコミュニケーション創発プロジェクトを発足した。またXR領域における新しい広告体験の設計、配信システム、効果測定サービスの開発なども開始。新宿の百貨店が提供する仮想都市空間では実際の街の屋外看板がヴァーチャル空間上にも現れる。

「配信領域」では、アドネットワーク化においてプレミアムな広告枠を優先的に取引できるマーケットプレイスの提供を開始した(共同事業)。ロケーションが持つ固有の価値に着目したマーケットプレイスを用意し、メディアを横断したDSP配信を目指している。

これからの交通・屋外広告については、デジタルかアナログかという二元論ではなく、それぞれの良い部分を組み合わせて価値を提供することが肝要だ。OOHの独自価値は、セレンディピティ、クリエイティビティ、リーセンシーだと考える。人々の注意を奪い合うアテンションエコノミー下では、今目にしている世界が本当に見たい世界なのか、見せられている世界なのかがわからない。しかしOOHには、選択肢になかった出合い「セレンディピティ」を提供できる。思いがけない広告にはっと足を止めさせる稀有な体験は、アウトドアメディアでしか実現できない。このクリエイティビティはテレビでもデジタルでも実現できない価値があると思う。リーセンシーは商品購入におけるラストワンマイルが鍵になるが、移動中にある交通・屋外広告は何らかのアクションや購買のラストワンマイルを押さえるメディアになっている。今こそこうしたOOHの本質的な価値を発信していき、業界で手を取り合って盛り上げていけば明るい未来があると思っている。

唐沢:インターネット広告媒体費のうちビデオ広告が今年初めて5000億円を突破した(前年比132.8%増)。電車内でもスマホの動画を見ている人は多い。今後はビデオ広告の中でOOHがどう使われていくのかも併せて考えていく必要があると思う。

私も三浦さんに倣ってOOHの独自価値を3つ挙げると、場所の力、五感、偶然性になる。例えばパリのある歴史的建造物の修復工事は、仮囲いに建物の外壁の絵を施し、景観を維持しつつ場所の力を最大に活かす広告の好例であった。また五感を通して体験させることでより深い記憶を生活者に促すことができる。偶然性がもたらす驚きや喜びと共に情報伝達するOOHは、人をポジティブな気持ちにさせるメディアでもある。前半で触れたオーディエンスデータの構築、標準化とあわせて、こうした独自価値を探求・発信することにより、ニューノーマルあるいはafter/withコロナの時代においても、OOHはさらに発展していくと強く信じている。

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