第18回 OAAA 交通・屋外広告セミナー

第18回目を迎えるOAAA交通・屋外広告セミナーは、昨年同様にオンラインセミナーの形をとって2024年2月28日(水)に開催した。
今回のセミナーでは、データとソリューションを活用し、OOH の広告効果を可視化することによって見えてきたOOH の強み、そして今後の可能性について、博報堂 DY アウトドアの丸山 唯氏にご講演いただいた。
交通・屋外広告メディアは、DXの進化の中で各種施策がますます加速しており、メディア別の売上でも前年実績を上回る好調が続いているメディアであり、例年以上に多い、約170名もの参加登録があった。

 

テーマ/ 「効果検証で見えるOOHの可能性と未来」

講師/  丸山 唯(まるやま ゆい)氏                                                               (博報堂 DY アウトドア デジタルプロデュース部 プロダクトリード)

 

1.OOHの効果検証について

 OOHの効果検証がなぜ必要なのか?

OOHの効果検証は態度変容に応じて調査の仕方が異なる。認知〜興味・関心では、意識ベースでの調査(BLS),興味・関心〜比較・検討、購入・申込ではIDデータを活用した調査、継続・エンゲージメントではSNSを活用するのが一般的だ。本日はIDデータを活用した調査にフォーカスした内容となっている。

近年プライバシー保護のため、デジタル広告で取得できるデータ量が次第に制限されつつある。Googleはサードパーティクッキーの完全廃止を進めており、データ制限によりリターゲティング広告などは機能しなくなる。しかしデジタルの強みであったデータ起点の広告パフォーマンスが悪化する一方、ロケーション起点でターゲティングが可能なOOH・DOOHは相対的に価値が向上するだろう。またOOH=認知獲得の媒体と思われがちだが、効果検証を取り入れることで認知以外の効果も示すことができる。定量的に各OOHの強さを証明するためには効果検証は不可欠で、デジタルデータレス時代に備えて積極的に取り組んでいく必要がある。

 

 効果検証がなぜ進み始めているのか?

 2023年、携帯/スマホなどのデジタルデバイスのシェアが初めて全体の1/3を超えた。特に10・20代は男女共に携帯/スマホの接触時間が最も長く、PCやタブレットを加えると全体の8割がデジタルメディアの接触時間である。

 デジタル広告は1996年のバナー広告以降、アフェリエイト広告、検索連動型のリスティング広告など、スマホの発展に合わせて発展してきた。今やデジタル広告の軸はどう効率よく目標を達成できるかが主流だ。TV-CMにおいても運用型テレビ広告の市場が誕生し、効果検証ができつつある。インターネットに接続されたコネクテッドTVも増え、ユーザーデータをIDベースで追う事ができるので、CMを見た生活者が商品を買ったかどうかまでわかる。

OOH・DOOH業界においてもデジタルの波が来ていて、2019年にはドコモと電通によるデジタルOOH広告の新会社「ライフボード」が設立された。ドコモのデータを活用することで、これまで実現が難しかった視認者数ベースでのインプレッション課金を提供。ドコモの属性データを用いてデジタル広告に近いプランニングもできるようになった。このような効果検証を次々と実現し、OOH・DOOHの需要は加速度を増している。

 

 OOHはどのように効果検証を行っているのか?

 効果検証に用いられる位置情報にはGPS、Wi-Fi、スマホのBluetoothを用いて計測するBeaconの3つがある。GPSは屋外でも精度が高いが、屋内での高さ検知ができない。逆にWi-FiやBeaconは正確な位置情報を把握しにくいが、屋内では精度が高いという特徴がある。

弊社では許諾を得たアプリのGPSデータを用いて検証している。OOHから半径◯◯メートル以内に広告掲出期間に出現したユーザー推定接触者と定義。周辺に視認範囲を広げて推定接触者を分析することも可能だ。最近は電車内のOOH推定接触者も定義して検証に活用。例えば山手線にポリゴンを張り、GPSの移動速度を加味し乗車判定=推定の広告接触者と定義して分析を行っている。

具体的な事例を紹介しよう。まずはTV番組の番宣で、屋外・交通広告に出稿いただいた案件。KPIは視聴率で、広告接触者がどれくらい対象のドラマを見たかを検証した。その結果、屋外<駅ホーム<駅ナカという効果差となった。これは電車の待ち時間などの空白時間に情報伝達できる影響から、広告への受容性が高いことが要因だと推察される。

次はエンタメ系サービスで、屋外・交通広告に出稿。KPIは検索・サイト来訪だ。効果検証の結果、OOHはTVやデジタルに比べて検索に寄与しており、認知、検索来訪・獲得に一定以上の効果を与えることが明らかになった。漫画に興味を持つユーザーが多いOOHをプランニングし配信した結果、行動喚起も図ることができた。この検証内容が評価され現在も出稿が続いている。

次も前述と同様のサービスで、このサービスを使ったユーザーをどれくらい増やせるかを検証。TV×OOH、デジタル×OOH、TV×デジタル×OOHの重複接触の効果を可視化した結果、TV・デジタルの単独よりも、プラスでOOHに接触したユーザー群の方がCPAは安価に収まった。さらにTV・デジタル・OOHのトリプルスクリーンに接触したユーザー群は、CPAを最も下げることができた。

このようにOOHには他のメディアを後押しする間接効果があり、検索、サイト来訪、コンバージョンなど認知以外の広告効果にも影響を及ぼす。デジタル広告と横並びで評価するのではなく、メディアの効果を最大化させるアシスト効果に今後も注目していきたい。

 

2.OOHの効果検証の現在地と未来について

Phase1(2019〜2025年):プログラマティックDOOHが登場し今後も増加。位置情報データを活用した検証が進むだろう。課題はデータの正確性で、GPSデータからはOOHが視認されたかどうかまでをIDで追うことができない点だ。検証にかかるデータ費用も改善が望まれる。

Phase2(2026〜2029年):GoogleのGAID(Google Advertising ID)廃止をはじめ、データ活用のハードルが高くなるため、統計モデルによる検証の増加が予想される。ちなみに弊社グループでは昨年、統計学を用いたMarketing Mix ModelingのガイドブックをGoogle Japanと協働で公開した。

Phase3(2030年〜):AppleのVision ProのようなARグラスが日常に浸透し、これを活用した効果検証が登場するだろう。例えばARグラスでしか視認できないQRコード的なものをOOHに埋め込み、媒体社保有のデータにユーザーデータを格納するような仕組みだ。ARゴーグル×OOHにより、媒体が何回視認されたか、動画の視聴完了率、視認したユーザーがWebでどのような行動をとったかまで計測できる未来が来るだろう。そうなるとリアルの接点が非常に重要になるので、OOH、DOOH市場の発展が見込まれる。

私達の世界にはOOHにあふれている。効果検証は一つの成長の手段でしかないが、取り組む意義はあるので、皆様と一緒に市場の発展に貢献できればと思っている。

 

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