第12回 交通・屋外広告セミナー
2016年3月2日(水)、第12回交通・屋外広告セミナーが開催された。
会場は電通12階ホールで、約120名余の聴衆が参加した講演会となった。
最近の大阪のOOHは「突き抜けた挑戦的なものが減ったのでは?」という、協会委員会の提起に、まずは「第3者」の視点で月刊ブレーン編集長 篠崎日向子氏に、最近の話題のOOH例をご紹介いただき、それに大阪から一言物申す形で、地元最前線で様々なOOHに奮闘されているクリエイターの皆様にご参集いただき、現在の大阪での仕事の有様や、閉塞感打破への挑戦的なご意見を伺った。
第1部 最新OOHの表現力を探る
講師:株式会社宣伝会議・月刊ブレーン編集長 篠崎 日向子
月刊ブレーンは今年創刊55周年を迎え、99年に宣伝会議からの発行を機に広告クリエイティブの専門誌として生まれ変わった。今日はブレーンの誌面でも紹介した作品を中心に、お話ししたい。
(画像は許諾の関係で掲載不可。ご自身で検索下さい。)
東京六大学野球のポスター・・・まず昨年非常に話題になり、読者アンケートのグラフィック部門でも1位になったのがこれ。電通の若手コピーライターとアートディレクターが自主提案したもので、ネットでの露出を機に一挙に全国に拡散。皆さんよくご存じの商店街ポスター展も、ネットで話題になり、商店街へ足を運んだ。これらの広告に共通するのは、SNSで拡散したということ。誰かに教えたくなるクリエイティブがポイントだ。今の時代のコミュニケーションには、コピーやデザイン力に加え、世の中の話題になる要素やクラフト力などが求められている。
ブリティッシュエアウェイズのディスプレイ広告「Lookup」・・・飛行機が飛び立つと子どもが追いかけていく映像が流れ、その機種の情報が表示される。屋外広告+デジタル、そして体験を通して話題が拡散されていく。YouTubeなどで広まるので、投稿する映像もキーになってくる。
米国広告協議会「スケルトン・ショー」・・・X線スクリーンを使ったビルボードで、ガイコツが抱擁する姿やダンスする姿が映し出される。スクリーンの後ろから現れたのは、同性愛者や人種の違うカップルなど。「愛は愛、愛にラベルはない」というコピーが示される。表現として面白い手段で、わかりやすい。
オールドネイビー20周年キャンペーン・・・タイムズスクエアに現れた、風船1000個が取り付けられたOOH。Twitterでセルフィーを投稿すると、風船でポートレートを描き上げる。非常に手の込んだ施策。
Google「OK Google」・・・ニューヨークの下町を中心に、至る所に「OK Google」の看板やオブジェクトを配置し、検索を促すメッセージを掲示。街中の人が楽しんで、メッセージを探した。大掛かりなことをしなくても、広告できるという好例。
マクドナルドのビルボード広告・・・日時計を活用した看板や、朝日を活用したデジタル広告など。発想は単純だが、こういう表現でも十分に話題を喚起できる。
映画のプロモ・・・「クロニクル」では主人公が空を飛べることに因み、人に似せたダミー人形を実際に飛ばした。「リミットレス」ではタイムズスクエアの巨大なビルボード広告に、セルフィー写真を投影。YouTubeで300万回の再生回数を記録した。
「Apotek」のサイネージ広告・・・電車が近づくと女性の髪も舞い上がる有名な広告。国内では、このようなサイネージの特性を生かした面白い表現はまだ少ない。グラフィック系とウェブ系の人が協力し合って、この分野の広告を盛り上げていって欲しい。
ランドローバー「テストドライブ・ビルボード」・・・実際に試運転できるクルマがビルボードに仕込まれた。これにより試運転希望者が10倍増加。ビルボードにアイデアやデジタルを加えることで、みんなを楽しませることができる。
【国内の事例紹介】
最近の交通・屋外広告の傾向としては体験させる場が増加している。商業施設や駅ナカなどのピンポイントで行ってもSNSで拡散されていくので、それ以上の効果に期待できる。人が集まる仕掛けを作ることが重要になってくる。
クロネコヤマトの宅急便コンパクト・・・新宿駅の地下通路に巨大な黒猫が出現、オリジナルグッズなどをプレゼント。SNSで話題になって、新しいサービスを効果的に告知。新宿の地下通路は今やイベントスペースと化し、次々と企画が実施されている。
クロックス「空中ストア」・・・東京ミッドタウンの吹き抜けスペースにスニーカーをディスプレイ。来場者が好きな色を選ぶと、ドローンが運んでくる。軽量という特性を伝える体験スペースを設けた。空中ストアというイメージが膨らむネーミングが、事前の告知効果を高めた。
Zero Base表参道・・・テナントとしては店舗が定着しなかったビルを、プロモーションや広告スペースとして機能させた例。このような考え方でいくと、街中や駅ナカのスペースも有効に働くと思う。
スライム10万匹討伐戦 in 新宿・・・ドラゴンクエストのPR。新宿地下通路に貼られたプチプチのスライムを通行人がつぶしていく。人間の心理をついた超アナログ手法。第二弾は18万個のブロックが使用された。
メルセデスペンツ「SUV EXPERIENCE」・・・六本木のメルセデスベンツコネクションに隣接するスペースで、オフロードコースの魅力を体験できる装置を設置した。これまでにないクルマのプロモーション方法。
JA「野菜の柱と壁ポスター」・・・新宿駅地下通路の壁面や柱を野菜がジャック。QRコードから野菜占いや特設サイトの野菜購入も促した。
クリープハイプ「真逆の気持ち」・・・新曲「真逆の気持ち」にかけて、渋谷の町の至る所に真逆のコピーを掲出。企画やデジタルでなくても、話題性ある広告を作れる。
アパレルブランド「Supreme」・・・シンプルな写真のポスター展開。町のあちこちに雑な感じで貼られ、時間を経てダメージを帯びた様子もブランドイメージとマッチ。シンプルだけどブランドらしさを上手く表現している。
PiTaPa記憶イラストリレー・・・10人のイラストレーターや漫画家が、伝言ゲームのように、PiTaPaの広告イラストを描きつないでいく。伝えることの難しさや記憶の曖昧さをそのままエンターテイメントになる広告にした。
新しい技術やデジタルデバイスの登場で、屋外・交通広告の可能性は広がる。表現やアイデア次第で、ポスターなどのアナログなメディアもまだまだ面白くなる。話題を喚起すれば、1カ所に掲出したポスターでも全国区になる。広告の目的をふまえ、メディアをきちんと選ぶことで、いい表現も生まれてくる。
第2部 パネルディスカッション
大阪のOOH 広告の「今日」と、「明日」のために大阪のクリエイターは、かく思う
市野 護 氏 株式会社電通 マーケティングクリエーティブセンター アートディレクター
田中 明尚 氏 株式会社JR西日本コミュニケーションズ 営業本部CR部 クリエイティブディレクター
竹上 淳志 氏 株式会社博報堂 関西クリエイティブソリューション局
(進行)篠崎 日向子 氏 株式会社宣伝会議・月刊プレーン編集長
篠崎:自己紹介がてら、最初に皆さんの最近のお仕事をご紹介いただきましょう。
田中:京都鉄道博物館TV-CM・OOH、滋賀県の観光プロモーション「虹色エモーション」、EXILE×大阪環状線のコラボキャンペーンの紹介
滋賀県の観光プロモーションでは虹をクリエイティブの核に、自治体初の虹予報を行い、話題を喚起した。またEXILEのキャンペーンでは「19」というアルバムにちなみ、環状線19の駅でコラボポスターを掲出。メディアジャック電車の運行や駅売店での特典付きCD販売など、交通媒体を最大に使ったプロモーションを行い、話題になった。
篠崎:EXILEの19と環状線の19駅というのは、偶然の一致だったんですね。では市野さんお願いします。
市野:「Good Japan Innovation」、マイネオ格安スマホのキャンペーン。カプコン・モンスターハンター「一狩りいこうぜ」・ヘッドハンティングキャンペーン、水戸なつめ「前髪切りすぎた」、海遊館プロモーションの紹介
最も知られているのが、「一狩りいこうぜ」のワードとロゴ開発。渋谷ハチ公前や新幹線内で広告展開も行った。海浜幕張でのヘッドハンティングキャンペーンでは交通広告グランプリ優秀作品賞を受賞した。「海遊館」では話題性ある中吊り広告を実施。実物大のナマケモノやサメが告知部分を食いちぎるという表現が、SNSやネットで拡散された。また冬の販促では水族館の生き物のキスマーク入りラブレターを制作。メディア関係者や一般の方に送付した。
篠崎:中吊り広告は、電鉄さんとの交渉も大変だったそうですね。では竹上さんどうぞ。
竹上:近畿大学の超近大プロジェクト「近大をぶっ壊す」、ひらパー、メトロ PLAY LAND ZOポスターの紹介
「近大をぶっ壊す」では、昨年毎日広告デザイン賞最高賞を受賞。これは難波でビルボードにもなっている。ひらパーは、今年で4年目。「メトロ PLAY LAND ZO TCC」のポスターでは、新人賞を受賞した。
篠崎:映画とのタイアップは、よく映画会社がOKしてくれましたね。
竹上:「永遠の0」が最初で、当初はごく普通のタイアップ広告だった。面白くないので僕が2時間ぐらいで作ったものがウケて、それから映画会社の方からオファーが来るようになった(笑)。
篠崎:皆さん、プレゼンする時はどこまで狙っているんですか?
市野:海遊館の場合、ナマケモノの中吊りが話題になったので、海遊館側から第二弾の要請があった。実はシャーク案もキスマーク案もクライアントが積極的だった。
田中:EXILEの例でも、その駅にしかないプレミアム感を持たせることにより、ファンを中心に広範囲に拡散された。お互いのWin×Winを探すことが重要。
篠崎:竹上さんのゲームセンターのポスターは、自主提案だったとか。
竹上:電通さんの商店街ポスター展のようなことをやろうと、若手クリエイターがポスター博覧会を開催。そこで僕がゲームセンターを担当した。B倍ポスターを10枚貼らして欲しいとお店の人に交渉し、自分で貼りに行った(笑)。見てもらえたことで話題になり、全国ネットの番組でも取り上げられた。
篠崎:最近見た屋外・交通広告で刺激を受けたものはありますか?
竹上:さっき紹介された、PiTaPaのポスターは面白いですね。
田中:竹上さんの広告もそうですが、予算がなくても、クリエイティブの強さでこんなに広がるんだなと実感した。
市野: OOHは掲出箇所が限られているので、見つけた人のモチベーションが上がりやすく、SNSとも相性が良い。
篠崎:交通・屋外広告をもっと面白くさせるアイデアや展望を聞かせてください。
田中:規制の多いメディアなので、交渉次第。例えば日本ダービーの日は、改札機に16人入らないと開かないとか(笑)。信楽焼きや木工のサイネージなど、その場所でしか出合えないメディアを作れば、地域のプロモーションにも貢献できる。
市野:サイネージは安価で解像度も低いという点で、グラフィックの格を下げている。アメリカのスーパーボウル枠のような、全国に誇れる巨大な媒体を作ってもらいたい。場や体験を作るという点では、大阪・アリバイ横町などは通りすがりで入りやすいので、貸ギャラリー風にポップアップストアに活用するとか。
竹上:僕は商品に合った場所を提供して欲しい。例えば手摺りのある場所をひとつ提供してもらうと、ステッカー1枚貼るだけでひらパーのスライダーの広告が成立する。サイネージだと予算も高くなるので、こういう方向性の方が現実的。交渉の余地を広げて欲しいですね。
田中:クリエイターとメディア関係者が一緒に開発できると、関西の広告も盛り上がっていく。
竹上:さっき言ったOOHはぜひやりたいので、許可いただける所があれば、よろしくお願いします。
市野:ビジュアルよりやっぱり本物だろう、ということで、今後は海遊館の展示そのものをOOHとして活用してみたいですね。
篠崎:最近大阪の広告は少し元気がないと言われていますが、アイデアとそれを突破するクリエイティブがあれば変えていける。お三方の話を聞いてそう思いました。ありがとうございました。