第19回 夏期広告セミナー

創立50周年記念企画 「地方発・不屈のクリエイティブ」を考える

「東京一極集中」と云われて久しい昨今ですが、この20年位の間にも大阪経済は、明らかに低迷しており、この先この流れに逆らい、大阪やその他各地方が等しく発展することは、考えにくい状況です。ただ非首都圏でも、それぞれの特色と個性を持って独自の文化や経済活動を興隆させることは可能なはずであり、徒に規模と量を競うのではなく、その地の唯一性を高め、中央が真似たくなる健全なビジネス育てることは、東京以外で仕事をする人間にとっては、気概のある目標といえます。そんな、気概のある仕事を残されたお二人の講師を迎えた夏期広告セミナーは、7月27日(月)に電通関西支社12階大ホールにて開催されました。約100名の参加者は、講師の日下氏と、鷹嘴氏両氏の肩肘の張らない語り口と、且つ地元を想う熱い気持ちの込められた内容に思わず引き込まれたセミナーでした。

第1講 「アホがつくる町と広告」
                                 株式会社電通関西支社 CRプランニング局コピーライター 日下慶太氏

商店街ポスター展の経緯と反響
商店街ポスター展は、2012年に新世界市場で町興しとして行ったアートイベント「セルフ祭」が発端だ。来場者はあったが売り上げには結びつかなかったので仕切り直し、職 業的なスキルを生かしたポスター展を企画。会社の新人研修という形で始まった。デザイナー・コピーライターがペアで商店街各店のポスターを制作。第2回のセルフ祭で商店街 に掲出すると多くの来場者があり、話題になった。すると今まで受け身だった商店街の人達が意欲的な姿勢に変わっていき、空き店舗を改装して「市場ギャラリー」がオープン。「第1回新世界市場ポスター展」の開催となった。

この反響が大きく、メディア30社程に取材され集客は2 倍に。フンドシ使用のポスターが盗難される騒ぎでも話題を集め、メディア効果は約1億円に。さらにTCC 新人賞など8つの広告賞も受賞した。

翌年阿倍野の文の里商店街で第2弾を実施。近隣にハルカスなどの商業施設が建ち、大型スーパーも建設される激動の地で「文の里商店街ポスター展」を開催。大阪商工会議所からのバックアップ、制作段階からTV3社の密着取材が入ったことなどが影響を拡大し、結果的にメディア効果が約4億円、来客は2倍、北海道や台湾からも見学に来る人もいた。16の賞をいただき、カンヌのファイナリストにも選ばれる作品もあった。

そして第3弾を今年の3月に実施する。商店街ではなく、阪急伊丹西台地区というエリアで「伊丹西台ポスター展」を行った。来場者は増えたが店の売り上げが伸びないというこれまでの課題解決の為、事前に商店主に自店のPRを要請して実施。こうした取り組みで商店主の意識が非常に向上し、各店でおトクなサービスとおもろいサービスを企画。例えばある宝飾屋さんでは、おトクなサービスはピアス20%OFF 、おもろいサービスは1千万円相当のネックレスをして記念撮影という様に各店が趣向を凝らした。お店と連携することでポスターもお店も相互効果で、売り上げは1.5~2倍、メディア効果はなんと7億8千万。全国ネットのTVで数回取り上げられたのが大きかった。

新世界市場はその後、空き店舗がカルチャースペースやコミュニティスペースで使われたり、新店舗も5店オープン。「セルフ祭」はアート活動と認められ、地域の学校などに招かれるようになり、こうしたムーブメントが雑誌でも取り上げられた。

またこの試みが全国に広がり、各地のクリエイターや学生が地元商店街のポスターを制作して活性化に貢献。宮城県の女川町で行ったポスター展では、電通や博報堂の枠を超えて仙台中心のクリエイター60人が参加。「笑って被災地を支援する」と地元紙に報じられ、新しい復興への取り組みとして紹介された。

「残る」という可能性
ポスター展の大きな効果はまず「残る」ということ。通常のポスターやTV-CMなら1~2週間の露出のところ、商店街のポスターは初掲出から1年経ってもメディアに取り上げられ、面白いポスターが商店街を観光化していった。文の里のポスターはキュレーションサイトやバズニュースなどよって拡散し、5ヶ月後に再びブレイク。台湾にまで波及して新聞で紹介され、観光客も呼び込んだ。キー局のTV取材も入り、ネットの力がTVを動かした。

「面白い」×「社会にいい」
この2つは、マスコミに取り上げられやすい要素で、PR戦略の鍵になる。またこの要素が人と人、会社と会社をつなぐ。コピーライターやデザイナーが職能を生かした「プロボノ」で社会に貢献。さらに“自分にいい”という側面もある。面白い作品を自由に創る機会が与えられることで賞を狙うことができ、クリエイターもより力を発揮できた。今後も「面白い×社会にいい×自分にいい」をキーワードにプロジェクトを企画すると効果的だと思う。

社外活動が社内活動をイノベーションする
そもそも「セルフ祭」という社外活動が社内活動につながっている。グーグルは勤務時間の20%を好きなことに取り組める20%ルールを実施しているが、業務以外の活動から新しい発想やサービスが生まれている。

僕はいま大企業にばかりに仕事が集中している現状を問題視している。例えば大企業への提案だと最終1案の為に、社内の複数の優秀なチームによるアイデアが何百案も没になる。一方地方では圧倒的なアイデアの供給不足で、非常に偏った現状である。カンヌでも「Social good:社会貢献に類する活動の支援」が叫ばれているが、それとは違う「Social solution:社会の課題解決」が求められている。僕ら広告代理店の人間は、日頃からクライアントの要請に応え、課題解決の能力が鍛えられている。その力をもっと地域の課題解決にも生かして行くべきだろう。そういう意識でポスター展にも取り組んでいる。

会社での人間関係とは違い、社外活動や社会貢献を目的に集まった人間関係は時間がかからない。「金は稼いでいないが、人を稼いでいる」。これは新世界市場のジャズレーベル澤野工房社長の言葉。社外活動などで人を稼いだらいずれ金になるのだという意味だ。

僕も社外活動のお陰で三戸なつめという新人歌手のデビューMV制作の仕事が舞い込んだ。プロデューサーの中田ヤスタカさんが、ポスター展を見て依頼してきたのだ。つまり地方でクリエイティブな仕事を獲得していくには、社外活動のように自分の自由になる作品を制作する場を作ることが必要だと思う。すると原宿カルチャーのど真ん中からでも仕事が舞い込んでくる。

アホが世界を変える
「大愚の教え」はちゃんと禅の教えにもあり、英語で言うと「Stayhungry, stay foolish」、あのスティーブ・ジョブズの言葉だ。家族を亡くしたり震災が起こったり、自分自身が病気で入院するなど、2年ぐらいの間に色々なことを経験し「人生は短い」と痛感した。思い切り何かをやる時間は限られている。だから照れと遠慮は捨てて、アホになってやりたいことをやろうと思った。大いに愚かになることで道は広がっていく。

 
 
第2講 「地域課題と向き合うクリエイティブ」
 
                                 株式会社博報堂 クリエイティブディレクター 鷹嘴愛郎氏

デジタルによる情報革命の波及
「80%のビジネスは15年後には消えている」と言われるように、デジタル化の波の中でモデルチェンジが加速度化している。これは広告の一部分にデジタルが入ったのではなく、明らかにモデルチェンジ。18世紀の産業革命に匹敵する、デジタルによる情報革命が起こっている。次の30年はモノのインターネット: IOTだと言われている。これからはビジネスの価値がどこにあるのか、誰にどのように役に立つかを考えることが大切になる。震災以降、地域広告の新しい価値を創りたいと思って取り組んだ3つの事例を紹介する。

浜のミサンガ「環」
東日本大震災直後、広告は世の中から姿を消した。自分の仕事で役に立つことはないかと思い、三陸地域で職を失った浜の女性達に仕事を生み出そうと、「三陸に仕事を!プロジェクト」を立ち上げた。女性達が漁網を活用したミサンガを作り、テレビ局のサイトで販売を開始。プロモーション動画が話題になり、全国から注文が殺到。ネットシェアという力で無名の商品でも一気に爆発的に売り上げられることを実感。

情報発信の際に心がけたのは、正確に情報がシェアされるよう一目一言化にこだわったこと。ある情報が局地的にネットで話題になると、費用をかけずに戦略PRが実現する。賛同した多くの著名人が着用してくれたことも話題性を喚起し、ゼロスタートからネットの単品通販で1億5千万を売り上げた。収益金を1円単位まで開示した情報透明性も評価をいただいた。

この時感じた情報の拡散セオリーが「強い入口、広がる出口」だ。インターネットの勝負扉は2つある。今回の場合、店の扉を押してもらうエモーショナルな映像、店に入ってからはシェアしてもらうためのキーワードやキービジュアルを配置し、広がる出口につなげた。

大量生産に象徴される強さの時代から、21 世紀はソーシャルメディア、シェアが価値を持つ時代。これからはどんな地域でも規模の大小や資金力ではなく、シェアの力で勝っていくチャンスがある。モノを物語としてシェアしてもらう時代になっていく。

過疎の農村と向き合うライスコード
これまで広告はクライアントからの100%受注だったが、浜のミサンガや商店街ポスターのように広告は自主開発できる。クライアントの課題を解決してきた僕達は地域の課題も解決できるし、地域の商圏マスから広域のソーシャルメディアに向けた情報も作っていける。強い引き込みとシェア拡散の新しい手法により、地域の課題解決に取り組んだのが「ライスコード」だ。

弥生時代から稲作で生きてきた青森県田舎館村。稲の色を使い分けて絵を描く田んぼアートは毎年20万人以上が訪れるイベントに成長したが、経済効果が大きな課題だった。僕らが提案したコンセプトは「最古×最新」。太古の昔からの農風景に最新のデジタル技術を組み合わせることで、風景からお米を購入できるアプリを考案した。人はテンションが上がっている時に購入意欲も湧く。お米アートを見て写メを撮っている瞬間に売り場へ直結させる。これにより通過型の観光客を購入顧客に変え、結果お米の売り上げは前年を大きく上回り、PR効果は1年目20万→25万人、2年目は海外からの取材も増え、29万人を突破。海外の賞も50以上受賞した。

田んぼアートという強い入口に、拡散の新手法、広がる出口、スマホのアプリを自主開発で提供。風景に直結したIOTモデルを作ったということで、海外では高く評価してもらった。マッキンゼーは2025年までに新たに500億個のモノが接続された600兆円のマーケットを生むと予測している。IOT市場はまだ拓かれたばかり。今後大いに本格化していくだろう。

デジタルによる情報革命により、ローコストローリスクで広告の新商品も生み出せる。博報堂の須田ラボでは、店頭の野菜に触れると生産者の声が聞ける「トーカブル・ベジタブル」を開発。生鮮食品の売り場をIOTで変える体験型トレーサビリティ広告だ。蔦屋のレンタルビデオの販促では、オキュラスリフトによる360℃ホラームービー体験イベントを実施。体験者の心拍数に応じてクーポンがもらえるしくみで、悲鳴をメディアに変えた。

今は商品の体験そのものがリアルタイムでシェアされる。IOTで広告はより体験型へシフトしていく。人の心を動かす基本のフレームは変わらないが、拡張する表現領域にIOT接続型のリアル体験、これをどう使って新しい広告を作っていくかが求められる。

世界の広告の潮流、2つのキーワードは、前に述べたIOTとFor goodだ。for good の概念は、①クライアントのビジネスをより良くする、②ユーザーにとっての暮らしをより良くする、③社会や地域をより良い方向へ導く。3つのWinがシェアされていくポイントだ。

地方の専門店「ジュエリーかまた」
最後は人口減少や少子高齢化が進む、青森県にある「ジュエリーかまた」の事例。地方の専門店は人口減少の中、全国チェーンやネット通販に客を奪われ、既存の方法では成果が出ない。ブライダルジュエリー主体の「ジュエリーかまた」も、若者減で深刻な課題を抱えていた。難しい仕事だったが、現場の声からコアアイデアが生まれた。日本の9割の宝石店は自社工場を持たない中、かまたは職人を抱え、オーダーやリペアにも対応。そこで、「売る」から「作る」サービスをシェアされる物語として、実話を元に口込みで広がる強い入口動画コンテンツを作る。大晦日に1度90秒CMをオンエアした後はホームページ上にアップ。来店予約のアクションまで促す地域版のマーケティングコンテンツを映像軸で回している。

逆境の中、地域広告の新しいひな型に挑んだ結果、ウェブによる来店率・スマホからのアクセスも、一気に上昇好転し、現在銀座の出店計画も進行中(11月段階では、既に出店済)。どの地方も同じ色で塗りつぶされるのではなく、各店の様々なカラーを発信できるような地域広告に取り組んでいる。

これから地方は資金力や規模ではなく、シェアの力で勝っていくチャンスがある。人の心の喜怒哀楽のスイッチを動かすコアアイデアに、新しい領域のクリエイティブを組み合わせ、マスの時代には突破できなかった多くの壁を乗り越え、広告の未来を変えていけると思っている。

 
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