第4回 人権セミナー

第4回人権セミナー 2014年11月10日開催

「人のこころにひそむ差別」     四代目 旭堂南陵 氏(大阪講談協会会長・大阪芸術大学客員教授)

第4回人権セミナーは、大阪講談協会会長の「四代目 旭堂南陵」氏を迎え「人のこころにひそむ差別」と銘うって、11月10日(月)、電通関西支社12階大ホールにて開催された。60名余の参加者は、南陵氏の社会史・文化史にまつわる差別の実態に関する興味深い話に、一味違った講演会を受講いただけたようだ。(以下要約)

勝手な固定観念が生み出すもの

「大阪のおばちゃんは、ヒョウ柄を着てる」とか、「大阪はすぐに値切る」とか、「通りゃんせ」の〝こわい?の歌詞は被差別部落を表している」とか「ほかすものを被差別部落の人と在日コリアンが食べていたのでホルモンと言う」等々(全て反証事実を紹介される)、こんな様々な根拠のない噂話が勝手な思い込みを生み、流布され固定観念となって行く。つまり誤った固定観念が、差別意識を拡大させており、非常に怖い事。

女性の知事や官房長官が相撲の土俵に上がり賞を授与したいと言った時、相撲協会は伝統を理由に断った。これは、日本の差別の歴史の中で、死を忌む「死穢(しえ)」、お産を忌む「産穢(さんえ)」、女性の月経を忌む血穢(けつえ)というものがあり、相撲の場合は、血穢(けつえ)に当たる。これらの差別に、どれほどの根拠があるのか。大相撲、大峰山、東大寺・二月堂等は未だに女性差別をしている。

南陵氏は、他にも「インドでは釈尊が登場するまで女性に宗教を禁止していた事」や、「山岳信仰は女人禁制だったが、元々の修験道の教義にそんな教えがなかった事」、また「今やサンクトペテルブルクに降り立てば帰国歓迎のアナウンスをされる迄になった女性指揮者の西本智実が、昔指揮者間で性差別や留学先でアジア人差別を受けた事」等々の女性差別事例をあげ、その愚かしさを説明された。

穢れを忌避したい気持ちと、それを蔑む差別意識

また「阪神淡路大震災の時に、当初芸人の慰問は『そんな事で笑っている場合か』と怒られるので慰問自体が憚られたが、実際にはお笑い芸人の慰問は歓迎された。」「江戸時代に通行手形なしで通行できた力士、歌舞伎役者、旅芸人等がいたが、実はそこに猛烈な差別事実があった。彼らは身分外身分だった。能・狂言ですら差別意識を失くす為に猿楽から能へと呼称を変えていった。」「獅子舞や傀儡を扱う芸能集団は被差別民の職業で、正月に無病息災などを祈り芸事を行うが、その浄めの仕事をさせつつ、それをやる彼らは穢れていると貶められた」あるいは「お祭りの尺八や太鼓も必要なものだが、それを作る人は蔑まれた」といった蔑視と歓迎という二重構造の職業、芸人差別事例。

つまり歴史的には能も歌舞伎も、大相撲も差別の対象にあったが、天皇陛下の観覧などをきっかけに、差別から解放される装置=権威付けを整えていった。大相撲は女性を排除して聖域イメージを仕立てたが、相撲の土俵もただの舞台に過ぎない。結局は後からつけられた権威づけを信じているだけ。このように差別は、根拠のない事実を固定観念化してしまったことに起因する。今は、表面的には部落差別はない。差別を意識させることが問題だと言う人もいる。しかし震災の時に、お笑い芸人への蔑視が垣間みられたように、心の底にひそむ差別意識は、意外な処で顔を出す。だから、そういう根拠のない観念を正し、芸能活動の中で、世の中の差別観をなくす努力をして行きたい。

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