第20回 夏期広告セミナー

第20回のOAAA夏期広告セミナーは、2016年8月8日(月)に電通関西支社12階大ホールで、約110名の参加者を迎え開催された。安倍政権により2014年9月に「まち・ひと・しごと創生本部」が置かれ、地方自治体の活性を掲げた「地方創生」が叫ばれてまもなく2年。「地方」の魅力を際立たせる為、その地域に潜在する情報、環境、技術、物産等にスポットを当て、話題性や集客力を高める企画を育んで来られたお二人の専門家に、その課題点や、成果を存分に語っていただいた。

第1講  「地方創生」は絶好のビジネスチャンス

株式会社電通 関西支社プロモーションデザイン局
局長補兼東京本社パブリック・アカウントセンター局長補
森宗 秀敏 氏

1. 地方創生の動き

国の動き

現在の出生&死亡率が続くと日本の人口は2100年には 5200万人となり、いずれ日本は消滅すると指摘されてい る。その中で、地方に仕事を作って東京への流出を防ぐこ とが国家的な急務となっている。 国は昨年度から地方創生加速化交付金1000億円を全額 補助。今年度は推進交付金1000億円(1/2補助)を5年間継 続しての交付予定。一方自治体が申請額と同額を負担する ので市場には1兆円が出回る換算だ。これを生かす方法を 我々が地方自治体と一緒に考えていく必要がある。 これまでと違ってKPI(需要業績評価指標)の達成が義 務付けられているため、マーケティングが鍵。地方自治体 はKPI実現のため具体策を必要としており、そこにビジネ スチャンスが生まれる。 地方自治体が国に申請する際、採択されやすい4つの要 素が、自立性、官民協働、地域間連携、政策間連携だ。 中でも多くの自治体は民間と協働することには慣れていな い為、ここに我々が提案できるポイントがある。

電通の取り組み

電通では地方創生室をハブに地域イノベーションセン ターを作り、様々な分野で活躍中のスペシャリストを含め た横断組織を作った。活動テーマには次のようなものが ある。
●DMO(Destination Marketing/Management Organization)・・・観光地経営の視点に立って観光戦略を 立案し、収益があって自立して動ける法人。国は国内 100ヶ所のDMO設立を目標に掲げている。
●地域商社・・・地域産品を売るためのしくみ。地域産品のブ ランド化に商機があり、農産物、海産物、工業製品など ニーズはかなりある。
●CCRC(Continuing Care Retirement Community)・・・高 齢者の継続的なケア付き共同体。国は100ヶ所のCCRC を目標にしている。

2. 地方創生の成功事例

徳島県神山町「神山町プロジェクト」

自治体独自の取り組みとして成功した有名な事例。人口 6000人程度の田舎町が若い働き手の移住を促進し、ITベン チャー企業十数社がサテライトオフィスを開設した。 古民家や蔵を再生した本格レストランのオープン、若手 クリエイターや職人などが起業できる環境も整備された。 地元出身のNPOグリーンバレー・大南信也理事長が事 業を推進。多様な雇用を作れる人に来てもらい、農業だけ ではないバランスのとれた持続可能な地場を作ることに取 り組んだ。徳島県は光ファイバー網が整備された環境だったこと、お遍路さんの通り道で来訪者を受け入れるDNA があったことなども功を奏した。

3. 電通によるケース

宮崎県小林市「ンダモシタン小林」

消滅可能都市とされる小林市。地方への移住を検討す る人をターゲットに、彼らを引き寄せる動画を作った。提案は地元出身のクリエイターが直接市に電話するという行 動からスタート。地域資産は言葉×人、フランス語に聞こ える西諸弁をクリエイティブアイデアに、在住者も出身者 も財産であるという概念を広めた。 方言と言う無形の地域資産を活用し、WEBならではのし くみで話題化。インナーモチベーションが上がり、市民が 誇りを取り戻すことに貢献した。出身者とのネットワーク も強化され、バーチャル組織も生まれつつある。

福井県大野市「大野へかえろう」

地元の高校を卒業した若者が、高校卒業後に地元を離 れたまま戻ってこないという自治体の課題があった。高校 生とその保護者たちにまちの魅力を再発見してもらうため 「大野へかえろう」というオリジナルソングを制作。保護者 が高校の卒業式でサプライズ披露した。親の気持ちを“劇 的に”伝えることで、「大野に帰る」という選択肢を強く心 に刻んでもらった。また高校生が地元の仕事の魅力に触れ る機会として、地元商店街のポスターを高校生が制作する ポスター展も実施。電通(関西支社)のクリエイターがサ ポートした。 一過性の派手なキャンペーンではなく、人口減少対策と いう本質的問題の解決につながること。市や
市民を巻き込んで、自分たちが地元に誇りを持ち、地元の 魅力を発見できること。さらに市民が担い手となってその 後も実践していける持続性・自走性のある施策が求められ ている。

4. どう取り組むか

地方自治体が抱える課題は数々あるが、特に人口減対策 に直結する結婚・出産・子育て支援に対するマーケティン グは大いに可能性がある。また今後は東京オリンピック・ パラリンピック、関西では「ワールドマスターズゲーム 2021」も開催される。観光の分野も必ず促進されていくだ ろう。 地方創生においては民間ソリューションとの合わせ技が 課題解決に結びつく。提案にあたってはまず国の政策と自 治体の総合戦略を理解することが重要だ。出身自治体や関 わりの深い自治体を探し、その自治体が示す「総合戦略」 を読み解いた上でKPI達成に寄与できるサービスを社内で 検討し、課題解決の具体的なソリューションを準備すると いう流れ。 自主提案を積み重ねることでもコミュニケーションを深めていける。

<電通のケース>

①滋賀県の近江牛:近江牛を核とした輸出促進ブランド創 出事業・・・滋賀県の地方創生をキラーコンテンツとして 「近江牛」を和牛トップブランドにするプロジェクト。Tom Vincent氏によるコンセプト立案、他言語サイト構築や インバウンド向けパンフなどを実施。

②白浜町の温泉「温泉のまち・白 浜インバウンド推進事業」・・・日本 の温泉地再生モデルとして「稼ぐ DMO」を白浜に設置。空港を持つ 強みを生かした水産物輸出による 地域ビジネスの国際化観光を産業 化し、雇用促進、平均所得の向上を図る。

地域資産に対して私達ができる ことは山のようにある。「それに気 づくこと」がまず大切な一歩だ。 ぜひ地方創生で関西をもっと盛 り上げていきましょう。

 

第2講  「奇跡の晩餐 DINING OUTの舞台から」

株式会社ONESTORY 代表取締役社長 大類 知樹 氏

地域の新しい表現フォーマット「DINING OUT」

なぜ地域で事業開発をやろうと思ったのか、その理由は 2つある。まず、移動革命とも言えるLCCが登場し、地域 と地域、地域と世界がダイレクトにつながり、人の流れに 変化が起こってきたということ。もう一つはデジタル化と グローバル化によって世の中の均質化が進み、ルーツやア イデンティティといった、逆にその場所にしかないような 価値観が大切にされていくと感じたからだ。

事業開発にあたり、この10年間の行動様式や価値観の変 化を調べて日本人の新しい価値指標を導き出した。その中 からCCC(Cultural Creative Class:文化的クリエイティブ クラス)という層を発見することがダイニングアウトをやる 推進力になった。彼らは食に対するこだわりも強い。CCC と地域を結びつけるための仕掛け・装置として、食を起点 にした新しい地域体験のブランド化ビジネス「ダイニング アウト」が生まれた。

ダイニングアウトとは、食を通じて地域に眠る魅力を再 発掘・再編集し、世の中に効果的に発信するための「地域の 新しい表現フォーマット」である。それは野外レストラン での一流シェフによる地域表現としての料理(新郷土料 理)と趣向を凝らした地域体験の演出、地域をプレミアムに 魅せるコンテンツ制作と戦略的な情報発信で構成される。

ダイニングアウトの事業理念は「日本に眠る愉しみを もっと」。その土地に育まれてきた魅力を、料理人・クリエ イター・アーティスト、そして地域の人々と共に抽出して、 磨き上げ、地域の新しいストーリーとして世の中にプレゼ ンテーションする。それは、CCCとその土地との出会い方 を統合的にデザインすることでもある。その際のポイント は、“狭く、深く、濃く”。CCCはSNSなどを通して情報発 信力が高く、目や舌も肥えている人が多い。今までにな い、狭く、深く、濃い感動的な地域体験こそ、彼らをその 土地のファンにさせ、PRマンに変化させることにつながる。

制作プロセス

①RESERCH・・・地域資産の洗い出し。地元に入ってあら ゆる角度から丹念に内偵調査する。

②IDEA・・・新しい視点の導入。その地域を表現する方向 性とテーマを決め、それに沿ったシェフやホストをキャ スティング。外部視点を導入しながら、テーマやメ ニューをブラッシュアップしていく。

③CREATIVE・・・その土地の新たな観光資源として世の中
に発信(ダイニングアウト本番)。

④REPORT・・・メディアビークルを選定して、戦略的に情 報発信していく。

こうした作業を地元の運営スタッフと半年間かけて一緒 に進めていく。地方創生においては地元スタッフとの協働 が極めて重要だ。ダイニングアウトは一泊二日で約15万円 もするが、毎回すぐに完売する。半年間という長い時間を かけて準備し、たった2〜3日しか開催しないという、「一 期一会の、感動的な地域体験」が、CCCにとっての最大の 消費対象となっている。この感動体験こそが、CCCの人た ちが、自ら進んで情報発信していく種となる。

2013年に行った佐渡でのテーマは、「流刑地が故に堆積 された文化度の濃さ」。順徳天皇や世阿弥、日蓮など当時 の都のトップカルチャーの牽引者ともいえる人々が流され、 人生の数年間を過ごしたことから、佐渡には非常に高い 文化の堆積がある。この壮大なテーマを表現するために、 日本全国の実に1/3にあたる32もの能舞台が存在する 佐渡でも、最古の能舞台が残る大膳神社を会場にして実 施。能を舞うのは、全員、地元佐渡の「女性」という異色 の能舞台を披露し、設定したテーマの導入として活用させ てもらった。

料理は、東京・赤坂「TAKAZAWA」の高澤義明シェ フが佐渡の文化、自然、農法などを料理でクリエイティブ に表現し、ホスト役のアレックス・カー氏の翌日の特別ツ アーとともに、「流刑地が故に堆積された文化度の濃さ」を さまざまな角度から総合的に表現した。

2016年3月には広島の尾道で開催した時のテーマは フュージョン。尾道はかつて海運の要衝で、世界中の文化 や商品が行き交う場所であった。そんな商人が活躍する環 境の中で、異文化を受け入れ、融合していく精神性や合理性が育まれてきた。それこそ、今、世界に誇れる尾道の アイデンティティとして、ダイニングアウトのテーマにし、 6人のジャンルや地域/国籍の違う一流シェフを集め、一つ のコース料理にまとめ上げることで表現した。会場も、商 人であった道蓮・道性夫妻によって復興された、国宝の 寺・浄土寺を舞台に開催した。

ダイニングアウトを制作するプロセスで、もう一つ特徴 的なことは、ONESTORY社内に、専属の食材調達チーム が存在しているということ。開催地が決まると、そのエリ アの食材をくまなく調査し、食材の特徴、生産方法、生産 者のこだわりや人柄まできめ細かな情報をデータベース化 して、毎回シェフに提供している。

また、ダイニングウトで考案する新郷土料理は、レシピ や作り方を協力してくれたレストランやホテルの方々に公 開しており、お店で提供することも許可している。これに より地元のレストランのレベルは確実に上がり、ダイニン グアウトでトップシェフが使ったという事実が地元の食材 のブランド化にも繋がる。トップシェフのお店でも、ダイ ニングアウト終了後、かなりの確率で、紹介した生産者か ら食材を仕入れるようになり、これも地元生産物のブラン ド化に大きく貢献している。 CCCには、いわゆるマス型のアプローチは効かない。 従って全国へ拡散するためディスカバージャパンやPEN、 料理通信という雑誌をパートナーメディアとして連携。各誌 の読者向けに、それぞれのコンテクストに沿って再編集して 情報を発信している。映像ではBSジャパンと連携し、共同 著作という形で「奇跡の晩餐」という特番を組んでいる。

ダイニングアウトの役割

ダイニングアウトを通して地元の人が地元の良さに気づ いてプライドを持つ。僕らはそのきっかけ作りを行ってい る。これが地域創生の本質であり出発点であると思う。一 流の外部視点の導入により、さまざまな原石を探り出して ストーリーを紡ぐ総合性と統合性、それらを最も魅力的に 表現するプレミアムな演出やメディアの戦略的な発信な ど、ダイニングアウトを通すと地域の魅力が時代価値に 合った地域資産として蘇る。地元に新たな人材を生むこと も重要なポイントだ。

これまでにないプレミアムな地域表現フォーマットに、 それぞれのステークホルダーが参加してコストを負担しあ う。ダイニングアウトはビジネスモデルとしても新しい。 ダイニングアウトをきっかけに、レガシーとして何を地元 に残していくかを設計をすることで、自治体への交付金も 出やすく、企業もフォーマットを利用しやすくなる。

ONESTORYは独自のメディア・PR網、商品開発や販 売のしくみも有しており、ダイニングアウトで創り上げた 地域資産をこうした機能にまで広げて中長期の消費に発展 させている。またダイニングアウトでノウハウを学んだ地 元スタッフがお店をオープンしたり、自分たちだけでダイ ニングアウトを実施するなど、イベント後も人が育ち、交 流が生まれ、一過性ではない地域活性化に貢献している。

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