第13回 交通・屋外広告セミナー 

2017年3月3日(金)に、恒例の第13回交通・屋外広告セミナーが電通12階ホールにて、110余名の聴衆のもと開催された。2部構成となった今回のセミナーでは、まず第1講で、交通・屋外広告の世界的な潮流を概観しつつ、デジタル・テクノロジーがどのように活用されているのかを柳貴男氏にご紹介いただいた。そして、第2講では、海外で導入されいよいよ日本でも運用が始まったデジタル・テクノロジーの最先端事例について、神内一郎氏から解説いただき、今後の交通・屋外広告がどのような可能性を持っているのかについて、受講者一同、知見のアップデートを行った。

 

第1講

「海外賞にみるデジタル広告」

講師:博報堂DYメディアパートナーズ コミュニケーションデザイン・ディレクター 

柳 貴男氏

 

アウドドアメディアの魅力

 アウトドアメディアに携わって、その魅力をキーワードで表すと3つある。ひとつ目は「刻む」。交通・屋外広告の仕事は、単に広告として機能するだけではなく、時には行き交う人たちにとって目印になったり、街のシンボルになったり、地図に残るような価値を刻んでいると思う。私も地下鉄駅と商業ビルを接続する出口の新設・メディア化や、ガンバ大阪の新スタジアム建設に関わらせてもらった。寄付金で8年かけて完成したスタジアムは大阪の新しいシンボルになっていると思う。

 2つ目のキーワードは「自由」。アウトドアはマスではできないことに挑戦できるメディア。私もキャラクターを模った車を走らせたり、最近の例ではデニムのプロモーションで帆船の帆をメディアとしてとらえ、デニムの帆で航海するプロジェクトを実施した。今やどんなものでもメディアにできる可能性があり、既成概念を超えて「自由」に挑戦できることが魅力だと思う。

 そして3つ目が今日のテーマでもある「デジタル」。インターネットの普及で情報量は膨大になり、96%の情報が消費されずに捨てられている。広告は、如何にしてその4%に入っていくかが重要で、そのためには、人々に興味を持ってもらって、誰かに伝えたくなるような体験価値を提供する仕掛けをどうつくっていくかが答えのひとつだと思っている。アウトドアはデジタルと相性がよく、今日は海外広告賞から、そうした体験価値を創造しているアウトドア+デジタルの好事例を紹介していく。

 

結果を可視化するサイネージ

 まずひとつ目に紹介するのは、2015年のカンヌライオンズで金賞を獲得したイギリスの「Look at me」で、DV撲滅を訴えるために、サイネージに顔認証の技術を応用した企画。巨大なサイネージには思わず目を逸らしたくなる程の傷を負った女性の顔が映り、その近くにカメラを設置。街ゆく人が女性の画像を見るとカメラが顔を認識、そして認識すればするほどその傷が消えていくという仕掛け。認知が上がるとDV撲滅につながる。デジタルをうまく活用して、目指す結果を可視化させている。

 ドイツの「The social swipe」も可視化の好例。貧困国への寄付を促進するため、街中にクレジットカードを読み取れるデジタルポスターを設置し、パンの映像と「彼らに食糧を」というコピーが表示される。そこでクレジットカードをスライドさせると、カードがまるでナイフになったように映像のパンが一切れスライスされる。これも結果の可視化によって多くの寄付を集めることに成功した。

 イギリスのBritish Airwaysの「Magic of Flying」は、ビッグデータを活用したサイネージ広告。BAの飛行機がとんでくると座っていた子供が立ち上がって飛行機を指差し、同時にフライトナンバーと出発地、行き先が印象的に表示される。これは専用の監視技術が飛行機を検出すると映像が連動する仕組みで、見る人に強い印象を与えた。このようなビッグデータを活用した広告は、今後も様々な形で開発されていくと思われ、本当に楽しみである。

 

2016年の最新事例

 2016年のカンヌライオンズではAI(人工知能)とVR(仮想現実)技術を活用した作品が多く見られた。AIを使った作品では、シンギュラリティが近づいていることを証明するような作品が複数の部門でグランプリを受賞。AIが世界NO.1の囲碁棋士を打ち負かしたグーグルの「Alfa-Go」がイノベーション部門でグランプリ、そしてオランダのINGが手がけた、レンブラントの新作をAIで実現させた「The next Rembrandt」が2部門でグランプリを受賞した。

 VRを活用した企画で、アウトドアでも使えそうなのが、Lockheed Martin社の「The field trip to mars」。15-20年後、人類はついに火星へ移住するという計画が発表されているが、そんな将来の「火星移住世代」である子どもたちをターゲットにした「オープンVR」企画である。子どもたちがバスに乗って遠足に出かけると、車窓に火星の風景が映し出され、バスの移動に合わせて車窓も変わっていくという、疑似火星旅行体験!バスの窓をLEDディスプレイにすることで、みんなで一緒にVR体験ができる仕組みだ。こうした手法を用いると、地下鉄の車窓がテーマパークのアトラクションのように楽しめる新たなメディアを創出できるかもしれない。想像しただけでもわくわくする。

 

デジタルと人との良い関係を目指して

 2016年は、AIやVRといったテクノロジーで、これまでの概念を超える挑戦が行われてきた。しかし、テクノロジーがどんなに進化しても、コミュニケーションにおいては手段でしかなく目的ではない。人とどう向き合うかが最も重要なポイントで、テクノロジーありきではない。

そうした意味で気になったのが、実際の人間がビルボードとなったXboxのサバイバルゲームのキャンペーン。ビルボードの台に立つ8人のチャレンジャーに対して、見ている人がスマホを操作し、人工的な雨や吹雪など過酷な天候を発生させて彼らを襲う、という過酷なゲームの世界を体現させるもの。たくさんの人がリアルに、またweb中継で視聴し、大きな話題となった。

これはゲームを訴求するのに最適な方法を考えたら人をビルボードにすることだった、ということであり、どんなにテクノロジーが進化しても、大切なのは最適なコミュニケーション手法をとることである、とあらためて感じさせるものであった。

 以上、アウトドアはデジタルとの組み合わせでどんどん進化していっている。我々のクリエイティビティも人と向き合う上で、「表現」から「体験価値」へ、さらに「どんなサービスをつくれるか」「どんな新しい未来をつくれるか」という発想になってきている。そのとき、デジタルは大きな力になっているのは事実だが、デジタルは人と向き合うための手段であって目的ではないということ、大切なのはヒト、ココロであることを忘れてはならない。

今後もデジタルと人との関係を考えながら、皆さんと一緒により良い未来を発明していきたい。ありがとうございました。

 

第2講

「OLD IS NEW Dynamic DOOHがもたらす新世界から」

講師:株式会社電通 アウト・オブ・ホーム・メディア局 部長

神内 一郎氏

 

OOHの起源

 世界最古のOOHは4万年前にインドネシアで発見された壁画で、通る人に絵という手段で情報を伝えた。屋外・交通広告はどこにいても同じ広告が出ている全日型で、ビジネスモデルとしては4万年前から変わっていない。しかし今日ご紹介するダイナミックDOOHは、その時、その場所、その瞬間に相応しいコンテンツをターゲットに届ける、進化したOOHである。

 日本のOOHが停滞している原因の一つは、広告の売り買いが非常に難しいことにある。まずデータが整っていない。場所を特定しても空き枠を1つ1つ確認しないといけない。クリエイティブも各フォーマットに合わせて作り直さなければいけない。 広告プランニング、売り買い、配信という3つの技術を統合したプログラマティックと呼ばれる手法を導入することにより、OOHもオンライン広告と同様にこれらを一気通貫で実現できるようになる。

 

ダイナミックDOOH

 ダイナミックDOOHの代表的な例が第1部でも紹介されたBAの「Direct magic flying」だ。さらに雨が降った時だけにクリエイティブが変わるDoveの大型ビジョン。雨の中で見ると、あたかもシャワールームにいるかのようで広告の認識率が高まり、SNSへの投稿なども加速された。

 DOOH はSNSとの相性が非常に良い。SNSとの連動によってファンの心を掴んだ事例が「tagboard」ソリューションを導入したメジャーリーグ・マリナーズだ。「tagboard」は ユーザが特定の#(ハッシュタグ)を付けてTwitterやFacebookなどのSNSに投稿した内容を自動的に収集。球場のスクリーンに表示させることで、リアルタイムデータを巧く活用して観客の共感を得ることに成功した 。この技術は大統領選挙やパブリックビューイングなどにも使われている。

 ダイナミックDOOHの効果はデータが証明している。広告の想起率が+18%、コピー(メッセージ)の想起率が+53%、広告を見てSNSなどに拡散させた率(引用率)は+173%と倍以上にのぼる(約50例から調査した結果)。

 

LIVEPOSTERを活用した海外の事例

 電通傘下のOOH専門エージェンシーが保有するプラットフォーム「LIVEPOSTER」は、外部データと連係することによってクリエイティブをリアルタイムに生成。各媒体社のネットワークに接続するだけで最適なフォーマットにして広告を配信することができる。広告配信の一元管理ができるため、制作費の削減にもつながる。

 イギリスのCosta Coffeeの事例では、LIVEPOSTERを使ってその地域の気温に連動。暑い時は柑橘系ドリンク、涼しくなるとミルク系ドリンクが現れるという風にクリエイティブを出し分けている。

 駅に設置したコカコーラのサイネージ「Seasons Greeting」は、時刻と連動。その列車に乗るお客さんに向けてメッセージを発信した。

 3カ国で同時配信したバーバリーの広告「Burberry Brit」は、外部データがInstagram。特定のインスタグラマーが投稿すると 、各国のクリエイティブも自動で変わる。ロンドン、ニューヨーク、シンガポールの全350面に一斉配信された。

 イギリスのアルコールドリンクPimm’sのキャンペーンでは、夕方家へ帰る人を捉えてPimm’sをアピールした。天気、気温に加え、パブの空席情報を自動生成して誘引。バス停のサイネージで最寄りのパブの空席情報を5分おきに更新。外の席が埋まれば中の席の情報に切り替え、全席埋まると情報配信を停止。これにより売り上げが13%向上、前年比94%という店もあった。行動に結びつくクリエイティブを作れるという好例で、カンヌでもシルバーを受賞。

 家電チェーン店Currys PC Worldのクリスマスキャンペーン「Spare the act」。イギリスでは喜ばれないプレゼントの損失が約890億円にも上り、それを事前にマッチングさせる企画を試みた。予め自分が贈ってもらいたい同社製品と、相手が目に触れる可能性の高い場所や時間帯を登録。その人の行動を想定し、投稿を反映したクリエイティブ(メッセージ)が配信された。2016年のカンヌでシルバーを受賞。

 

日本のダイナミックDOOH事例

 日本でもサントリーの金麦で、桜の開花に合わせてクリエイティブが変わるダイナミックDOOHを実施。場所ごとに気象庁のデータを取り入れ、異なる媒体をネットワークさせて開花前、開花後、花見終了後でクリエイティブを出し分けた。これまで特殊展開でしかできなかったことが、システムを活用することで異なる媒体社をつなぎキャンペーンを実施できるようになった。

 Yahoo!との実証実験では、リアルタイム検索を使って大江戸線六本木駅のサイネージに花粉情報を自動配信。電車が入ってくると風によってクリエイティブが変化し、その時のリアルタイム花粉情報を放映した。

 花王ではSNSと連動したダイナミックDOOHを池袋や原宿で実施。自撮りや投稿が増えるハロウィンの時期に、自撮り画像を投稿してもらい、サイネージに放映。その場にいるコスプレーヤーの共感を喚起させた。

 現在取り組んでいる都バスのサイネージ事業では、位置情報、天気、気温、時間に連動したクリエイティブを車内のサイネージに出し分けている。バスの走行位置に合わせてコンテンツを配信することができるため、チェーン店が各店舗で異なるメッセージを出し分けるといったことも可能になる。

 ディープラーニングの技術を使ったダイナミックDOOHの実験も進めている。走る車のモデルや年式を自動的に認識し、その車にあった広告を瞬時に出し分けるというもの。車を検知し、車種を認識した瞬間にクリエイティブを配信する技術により、検知から0.5秒で広告を配信する。

 AIやスマホなどのさまざまなテクノロジーを活用することによってリアルな世界を把握。日本に限らず、世界各地で「そのとき、その場所、その人」に応じたクリエイティブをスケーラブルに配信できる。これは未来の話ではなく、今の話だ。OOHも今やそんな時代に来ている。

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