第3回 人権セミナー

第三回人権セミナー 2013年11月11日開催

 

『マスコミ広告と差別表現』   にんげん出版代表・小林健治氏

 

人権セミナーは、府下で発覚した土地差別調査問題に端を発し、広告業界の人権意識改革の為に実施している。今年は一連の事件が一定の区切りを迎えたこともあり、多少枠を広げて認識向上を狙い開催した。

小林氏からは、昨今話題となっている「ヘイトスピーチ」問題に始まり、「差別表現の広告掲載と橋下徹市長差別記事」「差別語表現」と多岐にわたり、ご講演いただいた。(以下要約)

「ヘイトスピーチ」問題は、ネット右翼と呼ばれている「在日特権を許さない市民の会」を中心に、ありもしない「在日特権」という虚構を声高に叫び、全国で行なわれている様々な人種差別的デモの時に生じている。「在特会」の対象は、在日朝鮮・韓国人に留まらず、「韓国ドラマを流し過ぎ」とCXに抗議し、あるいは被差別部落出身者への憎悪発言にまでエスカレートしている。8月6日には、原爆被爆者に対しても「被爆者利権」と悪罵を投げつけ、「はだしのゲン」問題では島根や東京都の教育委員会にまで圧力をかけている。日本では、「ヘイトスピーチ禁止法」がないため、彼らを取り締れないのが現状である。ただ昨今彼らに対する反レイシストのカウンター活動も活発になっており、これらの事実をきちっと報道し、自社の見解を出すマスコミの姿勢が大事。「プライム戸籍事件」では、法律事務所や司法書士が立場を利用して戸籍の入手や身元調査を違法に行い、組織的売買を行っていた。これらの身元調査は、被差別部落出身者への差別に直結する行為である。

「差別表現の広告掲載事件と橋下徹市長差別記事」

●1989年:「週刊誌中吊り広告」掲載拒否事件
交通機関担当者が「部落差別」の言葉が大きく広告に出る事を懸念して掲載を拒否。その後きちんと対応はしたが、「部落差別許すまじ」と書いてあるにも関わらず、この逆の対応が行われた。

●週刊誌による橋下徹氏の差別広告・記事事件
府市W選挙の時、橋下徹氏の批判特集が出た。同氏の身元調査をし、同氏を被差別部落出身者と断定。他誌も同様の特集を掲載。中吊りには「同和」「暴力団」「ヤクザ」等の言葉が踊る。解放同盟から非難を予測し、被差別部落出身のライターに書かせるという取り繕い方。背景に選挙があり、微妙な力学のため糾弾が不十分であったため、翌年市長就任後、更なる再発を見る。それが「ハシシタ奴の正体」という記事で、後に編集長の辞任・社長のお詫びにまで社会問題化した。この事件は名誉毀損やプライバシー侵害の問題ではなく、「出版社が犯した部落差別」に対して、橋下市長が1人で社会的糾弾を行なったと言える。

これらの事例からの教訓は、記事の内容が事実かどうかが問われたのではなく、表現の差別性が問われたのである。記事に「なぜ被差別部落出身者であることを書く必要があるのか?」犯罪の陰に被差別部落の不条理や闇があると思われている。まさに社会的な差別を助長する表現かどうかが問われたのだ。

差別語と差別表現については、1922年の全国水平社創立大会決議で「穢多および特殊部落民などの言行によって“侮辱の意志を表示した”時は徹底的に糾弾を為す」と示したように、侮辱の意志がポイント。穢多、特殊部落、新平民などの言動をしても、侮辱の意志がないなら糾弾しない。文脈に差別的な意図があるかどうか。差別語はあるが、使ってはいけない差別語は一切ない。差別語でしか差別の厳しい現実を表せない時もある。その言葉に様々な思いが込められているので、その言葉をきちっと消化して映画やドラマは作るべき。差別語も映画の中で、必然性と合理的理由があれば使われるべき。要は監督の力量である。 (具体的には、著書「差別語・不快語」参照。)

今の広告コードに触れたら無条件に消すという考え方は間違い。言葉は時代と共に変わるから、社会的に適正な表現に変えるべき。差別意識のない人はいない。それを常に自覚することが大切。マスコミ倫理協会でもこのような主旨で理解してもらっている。制作元である皆さん方に、是非がんばっていただきたい。

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