第31回 クリエイティブ研究会

 

『はしとはらっぱとき』

第31回クリエイティブ研究会は12月20日に電通関西支社大ホールで開催された。年末の忙しい時期にもかかわらず80名近い聴講者が参加し、関西で既存の枠にとらわれない幅広いデザイン活動を行う3人の講師による鼎談形式で行なわれた。各講師の名前を合成したユニークなタイトル通り、それぞれの活動を通した楽しいトークからは新たなクリエイティブのヒントが数多くメッセージされた。

<プロフィール>
服部滋樹
「graf」代表・デザイナー・クリエイティブディレクター、京都造形芸術大学 情報デザイン学科教授。1998年「Structure for Living 暮らしの構造」を考えるクリエイティブユニット”graf”をスタート。デザインとアート、日常と非日常を行き来し、様々な領域で表現。空間、家具、建築設計、プロダクトデザイン、グラフィックデザイン、ブランディングに至るまでプロジェクトごとに幅広い活動を行っている。

橋本健二
橋本健二建築設計事務所代表。住宅の設計、店舗デザイン、舞台美術などに携わる。事務所は明治時代の木造校舎を移築して倉庫として使用されていた建築をリノベーションした空間。ここで不定期に展覧会・ライブ・本人 蔵書公開カフェを開催している。

原田祐馬
UMA/design farm代表、2003年、クリエイティブ・ユニット「archventer」を増井辰一郎と共同主宰。2005年より京都造形芸術大学 非常勤講師。2007年、UMA/design farmを設立。アートディレクター/デザイナーとして、エキシビジョンデザイン・ブックデザイン・グラフィックデザインなど手がける。2008年よりCRITICAL DESIGN LAB.のディレクター、2009年よりDESIGNEASTのディレクターを務める。

バーベキューを一からつくる

服部: 僕と原田さんは大学で教えているんですが、以前にその学生らと合同バーベキューをやったことがあるんです。

原田: 当日僕らが遅れて到着したら、学生達は炭もおこさず、ビールも飲まず、ただ突っ立っているだけ。

服部: 彼らは出来上がった以降のモノしか知らないんだと気づいた。そこで次の授業からバーベキューを一から作るという課題で、それ以前を学ぶことにした。

原田: 炭を作り、野菜は種からリサーチし、水は雨水をろ過するなど、こうした実体験を通して発想が広がっていった。

服部: 楽しく食べるため、脚のないテーブルという設計が生まれ、互いに天板を持ち合って食べることでコミュニケーションが育まれた。バーベキューのその先というデザインが生まれたわけですね。

原田: バーベキューの起源自体、家で豚を丸焼きして、近所の人にお裾分けすること。つまりバーベキュー自体がコミュニケーションツールだった。

デザインを生む状況自体をデザインしていく

服部: みんな目の前にあるものがデザインと考えがち。でもデザインが生まれてくるプロセスを理解しなければ真のデザインは生み出せない。

原田: 僕はデザインのシズル感、状況そのものからデザインすることを大切にしている。関西にはデザインの仕事がないとよく言われるが、その状況自体を自分達で設計していくと、自ずとデザインの必要性も見えてくる。

服部: マーケットがあると思っていること自体が間違い。21世紀のデザインとは、もはや既存のマーケットに放り込めるものではない。

原田: 「HOTEL ANTEROOM KYOTO」の仕事でも最初はロゴマークの依頼だったが、ギャラリーの提案を行い、空間の設計というより場の設計として関わった。カフェでトークやクラブイベントも行い、ホテルが新たな場の創出となっている。

橋本: 僕もたまに事務所で展覧会をやったり、蔵書の公開を定期的に行なっている。お茶やワインを飲みながら一日中本を愉しめるという「場」を提供。僕なりのコミュニティの場です。

服部: 場の中でどんなコンテンツが生まれているのか。ハードを作るだけではなく、コンテンツを生み出すことが大事。

マイクロコミュニティにおける新たなデザインの役割

原田: 最近はコミュニティの時代とか言われていますが。

服部: インターネットの普及で細分化された価値観がコミュニティを作っていて、地球上にマイクロコミュニティがたくさん存在している。そんな状況下でデザインにも新たな動きが起こっている。

服部: 自分達で作り、自分達で売る、これぞまさにマイクロコミュニティ。

原田: 都市の中で地産地消できるというのは考えてもみなかったこと。

服部: 養蜂は農薬が散布されていない都会の方が意外と適していて、大阪でもヤンマーがオフィシャルサポーターになっている「梅田ミツバチプロジェクト」がある。

原田: デザインは一方向ではない。いろんな視点からデザインを生み出すと、多角的に情報が伝わることを実感する。

服部: 今までは個とか、ディティールとかを意識しすぎていた。モノとモノを関係付けている何かを解き明かすことが大事になっている。いま世界中の人がそう感じているのではないだろうか。

<事例紹介>

So・・・Soap!
香港のデザイン事務所によるCoLABが開発したプロジェクト。女性達に仕事を作り出すべく、石けんを手作りし、女性たちが住むエリア毎にカートで売るというシステムを作り上げた。パッケージのみデザインし、YouTubeに高感度なPR動画をアップ。デザインが新しい役割を担った例。

HK HONEY
香港のデザイナー、マイケル・ラングが、ビルの屋上で養蜂を始め、ワークショップやエキジビションというかたちで地域の人達と蜂蜜や蜜蝋製品を作って販売。フードマイレージの意識も啓蒙した。

活動紹介

<中之島デザインミュージアム>
服部氏がコミッティメンバーを務める、中之島バンクス内に誕生したクリエイティブの新しい拠点。モノだけを展示する美術館ではなく、展覧会ベースでワークショップなどを行い、デザインを伝えるさまざまなプログラムを展開している。

<DESIGNEAST>
原田氏をはじめ、クリエイター5人が企画する大阪発のデザインプロジェクト。トークや家具の図面を国内外のデザイナーから募り、来場者がその場で作って持ち帰れるユニークなワークショップなども実施。

<茨木ヴィンテージカーショー>
橋本氏がプロデュースし、茨木市に日欧米のヴィンテージカーが集合したイベント。飲食の屋台村も作り、子どもから大人まで愉しめる内容で好評を得た。町と共存し、地域の活性化を促す取り組みを推進している。

<trope>
便利すぎるモノではなく、使う人が「知恵を生むような暮らしをつくる」をコンセプトに服部氏の運営するgrafが開発した家具シリーズ。複数のシンプルなアイテムを自由に組み合わせて、工夫する楽しさを生む。

<アイスケンジ>
アイスクリームを食べる橋本氏の子供時代の写真をモチーフにしたアイスケンジ。缶バッジに始まり、2012年の国際見本市「ミラノサローネ」でもアイスケンジのユニークなアプローチが予定されている。

<京都のリノベーションホテル「HOTEL ANTEROOM KYOTO」>
原田氏がビジュアル関係と、ギャラリーの企画・運営を行なった。企画展示の他、客室で作品を展示して購入できるなど、ギャラリー観覧者、作家、デザイン関係者に認知を広げ、彼らが集まってくるしくみを作った。

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