第30回 クリエイティブ研究会

 

「これはメディアかクリエイティブか、それとも・・・」

 

第30回を迎えることになったOAAAクリエイティブ研究会は10月19日、電通関西支社大ホールで開催された。今回は博報堂DYメディアパートナーズの柳貴男氏を講師に迎え、同社の鈴木雄介氏を聞き手に、テクノロジーを活用してメディアとクリエイティブを有機的に連動させた最新の企画事例を紹介した。顔認識技術を使ったサイネージの実物デモもあり、会場は大いに沸いた。

クリエイティブ×メディア×テクノロジー

柳:最近のクリエイティブは「どう認知させるか」から「どう体験価値を作っていくか」に変化してきていると思われる。そしてその際、ブランドをコンテンツ化させて生活者を楽しませていくことがこれからの広告のあり方のひとつだと思う。

鈴木:カンヌでも、アドフェスでもいろんな国の審査員と話したが、悩みはみんな同じ。どうやって生活者に伝わるようなコミュニケーションをしていくかということ。

柳:これまではメディアという器にクリエイティブが乗るような関係。それがクリエイティブ×メディア×テクノロジーというかけ算の関係になり、メディアとクリエイティブが一体化し、テクノロジーによってさらに洗練されていくという図式に変わってきた。

メディア環境の変化

鈴木:メディア接触時間を06年と比べてみると、パソコン・携帯からのネット接続が約1.5倍に増加し、ネットとマスメディアがクロスメディアしている状況にある(メディア環境研究所の調査)。デジタルの急伸によりTV-CMが飛ばされやすくなったことから、番組とCMの境界をなくすシームレス広告が出現。03年のカンヌで、映画番組で本編の流れのままCMに入るシームレス広告を見て驚いた。日本でも現在このような考え方をする企画が出てきている。

柳:例えば’10のニューイヤー駅伝では、本編とCMが融合した「プレイオンアド」が放映された。中継映像とCM素材をデジタルで合成するというしくみで継続的な視聴、いわば「トイレに行く間を与えない」広告となった。また朝日新聞社と連携してA-CLIPというiPhoneのアプリを開発。これは新聞広告をiPhoneのカメラで撮ると、より詳細な情報を動画で視聴できるというもので、クリエイティブも新聞原稿のグラフィックを起点にCM動画、ウェブコンテンツや店頭への誘導といった立体的な設計が可能になってきた。

生活者主導社会 to Cからwith Cへ

鈴木:メディア環境の変化は社会にも変化をもたらした。「to Cからwith Cへ」という生活者主導社会が到来している。to Cのコミュニケーションの在り方は、情報が一方的かつ大量に投下されるが、with Cにおいては共感を呼ぶコンテンツがあれば、生活者がブログやツイッターなどで情報のパスを回す。デジタルの進展でこのパス回しがますます早くなっている。

柳:こうした生活者主導型社会における広告は、認知のクリエイティブから体験共有のクリエイティブに変化。どうしたら生活者にブランド体験をしてもらえ、広げてもらえるものになるのかを考えることが重要。例えばデジタルサイネージもインタラクティブな仕掛けにすれば、次のような体感・共有できるクリエイティブになる。

例)劇場版「ゲゲゲの鬼太郎」のプロモーション事例。大阪戎橋とんぼりステーションの大型ビジョンで、通行人がビジョンの前に立つと顔認識の技術でゲゲゲの鬼太郎の顔に変身する。みな一様に立ち留まり、驚き、喜び、変身した自分の姿をケータイ等で撮影する。

柳:ケータイ等で撮影した人はブログやSNSに写真添付で書き込む。その写真は広告も写りこんでいるので、広告も広げてもらえる。また、その話題性からマスメディアでも取り上げられ、たった一箇所の展開がまさにwith Cで全国に広がった好例である。

鈴木:体験・共有に加え、最近は「使ってもらう」広告もある。代表的なのがユニクロのユニクロック。暮らしに役立つ機能やサービスにエンタテインメント性を持たせ、ブランディングに生かしていく「ブランデッド・ユーティリティ」という概念だ。

柳:ミクシィ年賀状もそのひとつ。SNSというソーシャルメディアとリアルな年賀状交換(郵便)を結ぶしくみを開発し、167ヶ国で利用されて70万通申し込まれた。デジタルを利用してアナログなことをやった例だ。100社以上の広告主やコンテンツホルダーが提携して500種類以上の年賀状(テンプレート)を販売するしくみで、まさに広告主と事業・サービスをクリエイティブする時代だと感じている。

トリプルメディア時代

鈴木:現在はトリプルメディア時代と言われる。①マスなど従来の有料メディアのPaid Media、②自社サイトやカタログなどを使うOwned Media、③口コミ、ツイッターなど評判を獲得するEarned Media。最近は②や③をどう活用してトリプルメディアを設計していくかが重要視されている。こうしたトリプルメディアを駆使してプロデュースした仕事が次のような例だ。

柳:ダイキンエアコン「うるるとさらら」キャラクターぴちょんくんのデビュー10周年企画でぴちょんくん号という、キャラクターのカタチを模った営業車(=Owned Media)を製作。あわせてGoogle Mapとマッシュアップした車の現在地がわかるホームページを制作。車を目撃した人はその形状のかわいらしさからブログやSNSといったEarned Mediaで話題にし、パブリシティでも多くとりあげられた。また、今年開始したぴちょんくん号のツィッターは既に5万人のフォロワーがいるので、ツイッターと相性のいい動画共有サイト“ユーストリーム”を活用した番組「ぴちょんくんチャンネル“24時間てれぴ”」を制作。前半の10時間は角川のWalker各誌と協働で、後半の14時間は吉本の構成作家を起用してオリジナル番組を制作した。番組にツイッターでツッコミを入れつつ世界中の人と一体感が得られるというユーストリームの特長を利用して盛り上がった。大変な仕事だったが、メディアでも取り上げられ、ツイッターでも新しい取り組みに共感する声が多数寄せ本当にうれしかった。

柳:とはいえ、いくらメディアやテクノロジーが発達しても、自分達の仕事はクライアントに対して最適のソリューションを提供することに変わりはない。その中でどうすれば生活者の心を動かし、自分ごと化してもらえるのか。その核となるクリエイティブアイデアを営業やマーケなど職種を問わずみんなで協業して創り出すことが大事なんだと思う。メディアプロデューサーだからといってメディアのことだけを考えていればいいのではなく、ソリューションとなる(広義な意味での)クリエイティブをどう広げていくかをこれからもクリエイターの方々と一緒になって考えていきたい。

〔講師プロフィール〕

柳 貴男 (やなぎ たかお) /博報堂DYメディアパートナーズ関西支社 メディアソリューション局 メディアプロデューサー。1995年博報堂入社。営業セクションで10年以上クリエイティブを担当した後博報堂DYメディアパートナーズ アウトドアメディア局を経て、現職。メディアの枠にとらわれない様々な企画を立案・プロデュースしている。東京インタラクティブ・アド・アワード、デジタルサイネージ・プレアワード、釜山国際広告祭など受賞。

鈴木 雄介 (すずき ゆうすけ)/博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所 主席研究員。1985年博報堂入社。マーケティング、メディアプラニング等のセクションで企画立案に従事。現在は、研究所と関西支社メディアソリューション局を兼務。2007年カンヌ国際広告祭(メディア部門)審査員、2008年アジア太平洋広告祭(Adfest)審査員。

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