第7回 人権セミナー

第7回人権セミナーは、11月16日(木)に大広12階会議室にて開催された。今年のテーマは、子どもの貧困。昨今、テレビ番組や報道等で取り上げられて、急速にクローズアップされてきた社会課題。このなかなか外からは見えづらい問題にスクールソーシャルワーカーとして長く携わってこられた金澤ますみ先生と、現在支援活動を手掛けておられる岡本工介さんにお話しいただいた。50 名の受講者の一部の方からは、感動したとのお声も頂き、有意義な勉強会となった。

 

子どもの貧困。今私たちの周りで何が起きているのか。

講師:桃山学院大学社会学部 准教授 金澤 ますみ 氏

 

子どもの貧困問題とは?

貧困というと、食べるものも着るものもなく、生命が脅かされるような状態(絶対的貧困)をイメージされることが多い。
しかし日本で大きな問題となっているのは、社会や文化の中で普通の暮らしができていない「相対的貧困」であるため、イメージがわきにくい。子どもの貧困問題の一例をあげると、学校教育においてお金を積み立てられないため修学旅行に行けないというように、日本の暮らしにおいては「当たり前」とされる機会が失われている状態を指す。

普通の暮らしができないとは、必要なものが剥奪される状態ともいえる。私がスクールソーシャルワーカーとして出会った子どもたちの中には、医者にかかったことがなかったり、給食が唯一の食事という子がいた。食事の偏りから肥満になる子どももおり、「やせ細っている」という絶対的貧困のイメージとは異なる。また、絵本を読んでもらう、スポーツをするといった文化的体験も極端に少ない。その背景には保護者が抱える様々な苦悩がある。何らかの理由で家事や育児をすることが困難な状態にあり、保護者自身もその方法を教わった経験がない場合が多い。支援制度の手続きも複雑で、それをサポートする仕組も整っていない。子どもの貧困を考えることは大人の貧困問題を考えることでもある。

 

小学校入学時から失われ続ける成長発達の機会

義務教育は、給食費や校外学習費、教科書以外の教材費等、ほとんどが保護者負担で成り立っている。入学時には小学1年生で約13 万3千円、中学1年生で約25 万6千円かかるとされる(参照『子どもの貧困白書 2009』明石書店)。義務教育のスタート時点で既に「教育の機会均等」が保障される環境にないのである。

中学生の制服代は、全国最高値が女子の場合約7万7千円、最安値で約3万6千円。男子で最高値約6万7千円、最安値が約3万円という調査報告がある(「公立中制服の価格差、最大2倍超SNSで111校調査」2016/8/19 朝日新聞デジタルより)。さらに指定の鞄や教材費なども必要で、それらを保護者が揃えるのが当たり前という文化の中では、「払えない家庭が悪い」で終わってしまう。重要なことは、お金があってもなくても、家庭の経済状態に左右されない教育環境が保障されることではないだろうか。また部活にもお金がかかる。高校生にもなると、部活後に生徒同士がファーストフードなどに立ち寄ることがあっても、お金がない子どもは断るしかない。毎回断っていると付き合いが悪いと言われ、人とのつながりも奪われていってしまう。

<動画視聴>
ビジュアルノベル『貧困を背負って生きる
子どもたち 仁の物語』制作:NPO法人山
科醍醐こどものひろば,脚本:幸重忠孝 
【前編】http://youtu.be/IWlmZN7t9JQ
【後編】http://youtu.be/nwsDYBFowew

山科醍醐の活動を参考にした夜の時間帯に子ども達が安全・安心に過ごせるよう支援する「夕刻を支える場」の取り組みが他の地域でも広がり始めている。子どもがそこに通うことで保護者にとっても安心できる時間帯となる。今日は活動を実際に行っている「タウンスペース WAK WAK」の岡本工介さんから現場の実践を紹介していただく。

 

一般社団法人タウンスペースWAK WAK の活動紹介

私たちは高槻の被差別地区を含む地域を拠点に、子どもから高齢者までを支える包摂型(社会的包摂)のまちづくりを目指してさまざまな活動を行っている。特に制度や教育、地域の中でともすれば、こぼれ落ちがちな地域住民の支援の仕組みづくりに力を入れている。近隣の社会福祉法人や公的機関でも解決できないようなケースを扱っていることも多い。子どもの分野では、学習支援、2つの子ども食堂、生活相談の支援も行うコミュニティソーシャル事業という4つの事業を並行して実施。地域・家庭・学校・行政と協力しながら「ただいま~」と言える子どもたちの居場所づくりを目指している。長年の地域のまちづくりや教育の実践のノウハウを活かし、地域でのお互いさま、支え合いの文化や地域・家庭・学校・行政との連携などのメリットを運営に生かしている。

学習支援教室には現在19名の中学生が通っていて、中には生活保護の家庭や一人親、虐待や発達障害など様々な課題を抱える子どももいる。マンツーマンに近い体制で受講料は12000円/月、ひとり親家庭や生活保護家庭は半額の6000円で運営している。地元の小・中学校を退職された先生や教員志望の学生が指導にあたっている。今後、企業との連携も模索している。事業の目的は、第3の居場所をつくることで家庭、学校の他に、もう一つの居場所として機能させること。その受け皿となるような場として今年から「共生食堂」と「ケア付き食堂」の2つの子ども食堂を始めた。いま全国で400 ヶ所にも及ぶとされる「子ども食堂」は、2つの流れからあると言われている。地域の誰もが参加できるしくみとしての「共生食堂」。夏休みや冬休みにイベント的に実施し、そこで文化的貧困を超えるために盆踊りやクリスマスなどの文化に触れ合うことも大切にしている。一方「ケア付き食堂」は少人数で子どもの生活課題を支える。食卓を囲んで家族団らんを経験し、学習支援と併せて「夕刻を支える場」となっている。活動の様子がNHK全国放送(「地域魅力化ドキュメントふるさとグングン」)で放映されたこともあり、最近では地域の農家やJAなどの企業から野菜やお米などの寄付をいただくことも増えている。

子どもの貧困対策の法律は施行されたばかりでまだ公的支援が追いついていない。制度化されるためには世の中への理解を得る必要があるが、講演会をやると多くの方が来場。子どもの貧困問題への関心の高さが窺える。今後は地域・家庭・学校・行政、大学、企業が連携して課題を解決するコレクティブ・インパクトを目指している。自分達はいつも現場で忙しくしているので、どうしても社会への発信力が弱くなる。これからは広告会社の皆様にも協力をお願いして、企業との連携も図っていきたいと考えている。

 

業種を超えてこれからやってみたいこと

学校や行政だけでは限界があるため、今後は業種を超えて問題解決に取り組んでいきたいと思っている。例えば、むし歯
予防の取り組み、夏休みの自由研究をバックアップする企画を、支援者と企業や大学のコラボで行う。生徒のSOSに対応
するため、相談先のURLや解決のヒントなどを載せた新しい生徒手帳を考案する。あるいは下着メーカーとタイアップした性教育の実践、授乳場所がわかるマップづくりなど、皆さんの知恵やアイデアをお借りして新しい取り組みを進めていけたらと思っている。

最後に「夕刻を支える場」の応援ソング「ただいま(作詞/作曲 金澤ますみ/歌chizu)YouTube参照」を紹介して終わり
たい。今日はありがとうございました。

 

 

 

Top