第21回 夏期広告セミナー

第21回のOAAA夏期広告セミナーは、2017年7月24日電通関西支社12階大ホールにて、グラフィックデザイナーで大阪芸術大学教授の三木健氏をお招きし、約110名の参加者にて開催された。ホール中央部には、全長9メートルに及ぶ講義全体のプレゼンテーションボードが展示され、かつてないインタラクティブな進行に、聴講者は、夏の暑さを忘れ熱心に聞き入っていた。

考え方・作り方・伝え方・学び方 今世界から注目される白熱授業

「気づきに気づくデザインの発想法」

講師:三木 健 氏

僕はもう40年近くデザインの仕事をしているが、大学生にデザインを教えることになった当初は本当に悩んだ。デザインのデの字もわからない大学1年生に一体何をどこから教えればいいのか?ある時朝食に食べていたりんごを見て気づいた。「自分が好きなりんごとデザインを掛け合わせれば、好きの二乗で何かを語れるかもしれない」と、どこにでもある身近なりんごを通してデザインの抜本的な考え方・作り方・伝え方・学び方に気づく発想法を思いついた。そこで自分自身がワクワクするような学び方そのものをデザインし、これまでにない新しい授業を展開していこうと思った。

What is design?

暮らしの中にはたくさんのデザインがある。プロダクト、ファッション、建築、インテリア、グラフィック・・・すべてがデザイン。使いやすくて気持ち良くて、見えないところまで考えられている。ワクワクしたりドキドキすることもデザインなので、まずは自分自身がワクワクすることが大切だ。デザインは考え方を考える仕事であり、作り方を作る仕事。だから本質をしっかりと見極めることが重要になる。ぼんやりと見るSeeではなく、LookやWatchでしっかりと観察していくと、今まで気づかなかったことが見えてくる。それがデザインのヒントになり、デザインのタネになっていく。

Apple

アダムとイブ、ニュートン、ビートルズ、スティーブジョブズ・・・世界を動かした偉大な人や発明の陰にりんごがある。誰もが知っているりんごだが、漠然と知っているだけで実は知らない。ソクラテスの言葉「無知の知」のように、知らないことを自覚することが学びの入口になる。りんごを通してそれを体現していけるような15のプログラムを考案。その中からいくつかを紹介してみよう。

Lesson1観察/分解 Lesson2:観察/長さ Lesson3:観察/面積 Lesson4:観察/色 Lesson5:いたずらがき Lesson6:点/不自由さが気づかせてくれる Lesson7:線 手で考える Lesson8:連想ゲーム/話すデザイン・聞くデザイン Lesson9:りんごパーティー/喜びをリレーする Lesson10:一本の線/つながる・ひろがる・みつかる Lesson11:オノマトペ/感じる言葉 Lesson12:思考のオブジェ/偶然の幸運に出合う能力 Lesson13:パラパラ漫画/絵にいのちを吹き込む Lesson14:教科書/新しい教科書をつくる

観察/長さ

りんごの外周を知るため、2mm幅の赤い紐を巻きつけていく。紐が巻かれてオブジェになることでわずかな歪みや中心がずれていることなどがわかり、紐を巻く前の無数の色や模様がいかに複雑で多様な情報であったかに気づく。最後に巻きつけた紐の長さを自分の身体感覚で認知する。

観察/色 自然の摂理に学ぶ

改めて観察すると、りんごには想像以上にさまざまな色がある。数多とある自然界の色から、学生たちは求める色を可視化していき、世界で最も豊富な赤が表現されたりんご色見本帳を作った。

点 / 不自由さが気づかせてくれる

爪楊枝を使ってりんごの点描画を描く。爪楊枝を束ねたり、細くしたりしながら作り方を組み立てながら設計が始まり、りんごに潜む無数の赤が表現されていく。見方を変えてしっかりと認知することで見え方や理解が変わってくる。

パーティー/ 喜びをリレーする

りんごをテーマにしたパーティーを開催し、茶の湯をヒントにコミュニケーションデザインを学ぶ。CHAをCommunication(対話)、Hospitality(おもてなし)、Art(美意識)にたとえ、みんなでパーティーをデザイン。遊ぶ、ときめく、笑う、学ぶ、りんごがみんなをつないでいく。

一本の線/ つながる・ひろがる・みつかる

りんごから連想されるキーワードをテーマに一筆書きで絵を描き、5枚1セットのりんごの物語を創る。簡略化されることでモノの行動が際立ち、一定のルールの下で多様な個性が広がる。また他の人のカードと組み合わせることで思いもよらない物語になる。

オノマトペ/ 感じる言葉

りんごを食べる「ぱくぱく」、りんごのような肌「きゅっ」など、りんごから連想されるオノマトペ(擬音)をデザイン。擬音をデザインすると文字に命が宿り、1つのシーンが作られていく。

パラパラ漫画/ 絵に命を吹き込む

りんごから始まるパラパラ漫画を創作。空間性や時間軸を意識し、モーショングラフィックスの基礎を体験する。学生たちの作品に音楽をつけて絵に命を与えてみた。(映像紹介)

教科書/ 新しい教科書をつくる

毎回のテーマに沿ってワークショップの内容が配られ、そこに自分とみんなの作品ダイジェストをファイリングしていく。授業終了時にはワークショップすべての記録をまとめた教科書ができる。みんなの作品をみんなで選考・評価していくので、教員が採点しなくても自分の立ち位置が見えてくるしくみだ。

プロセスを振り返る

このように理解・観察・想像・分解・編集・可視化、全てのプロセスで気づきを見出すカリキュラムを構成。学生達は考え方や作り方、伝え方のプロセスを通じて、デザインとは何かということに気づいていく。その課程では何度もプロセスを振り返り、第三者に説明して理解を深めることも指導した。

Open Education

大学の授業を社会にも開いていこうということで、以前に中央公会堂で講演を行った。授業の話をしようと思ったのは、自分の発想や思想に基づいて、学生達のやる気やその気や本気を引き出す“しくみ”を作っているということを伝えたかったから。やる気やその気や本気とは、物事に対する品質と誇りが生まれてくること。それがこの授業のすべてと言っていいかもしれない。この講演を機に出版や展覧会のお話をいただくようになり、AGI(国際グラフィック連盟 Alliance Graphique Internationale)でも講演を行った。スイスの出版社から「Apple」という本が書籍化され、中国語版は9月に発売予定。日本語版も年明けまでには出版される予定だ。

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